妊娠中

Q11 妊娠すると、胎児にカルシウムを供給するため、むし歯になりやすいのですか?
A11

それは間違いです。

妊婦が食事からカルシウムをほとんど摂らなくても、胎児には必要量のカルシウムが供給されます。

これは妊婦が自分の骨のカルシウムを犠牲にして歯のカルシウムを犠牲にするのではない)、胎児にカルシウムを供給するためです。歯のカルシウムは利用されないカルシウムであるのに対して、骨のカルシウムは利用できるカルシウムです。つまり、妊娠で歯のカルシウムを胎児に供給してむし歯になりやすくなるということはありません。

 

※参考書籍
 「新骨の科学」 須田立雄 医歯薬出版株式会社

Q12 妊娠中の歯科治療について教えてください。
A12

妊娠・授乳中の患者さんが歯科治療を受けるとき、母子両者の安全性について考慮しなければなりません。周産期の時期、現在の体調などを的確に問診し、適切な対応が必要となってきます。時に、薬剤の使用やエックス線検査などは、慎重な対応となります。

しかしながら、歯科疾患によって食事摂取が困難になってしまうと、母体にも胎児や幼児にも悪影響を及ぼすことになります。不必要に薬の服用を避けたり、歯科処置を延期したりすると歯科疾患が悪化してしまいます。歯科医師は治療の必要性と危険性を照らし合わせるための十分な知識と、その裏づけによる的確な判断が必要とされます。

的確な判断をするためにどのようなことを問診でお聞きする必要があるのかをご紹介します。

1. 妊娠何ヶ月ですか?(産後どのくらいですか?)

周産期の時期をよく把握し、処置の必要性と危険性を照らし合わせて対応します。
不必要に治療を回避したり、延期したりはできません。
歯科治療は妊娠中・産後のどの時期も絶対やってはいけないということはありませんが、歯科治療に緊急性がなければ、妊娠中期、産後2ヶ月以降の安全な時期に実施します。
各周産期について知りたい方は以下を参考にして下さい。

●妊娠初期(1~4ヶ月)

妊娠した月経周期が妊娠1ヶ月で、予定月経のなかった日から2ヶ月に入ります。受精・着床から胎盤完成までの時期です。流産や催奇性などの問題がありますので、歯科治療は緊急性がなければ回避するべきです。

●妊娠中期(5~7ヶ月)

胎盤が完成し、安定した時期です。ほとんどの歯科治療が可能です。

●妊娠後期(8ヶ月以降)

胎児の成長によって、横隔膜が押し上げられ、心臓への負担の増加や呼吸数の増加などが生じてきます。
また、胎児循環や分娩への影響を考慮して、歯科治療は緊急性がなければ回避するべきです。

●産後1ヶ月

生理的にも精神的にも不安定であるため、歯科治療は緊急性がなければ回避するべきです。

●産後2ヶ月以降

ほとんどの歯科治療が可能です。

2. 体調はいかがですか? 

妊婦は、ホルモンバランスの変化や胎児の成長にともない様々な体調変化が生じます。妊婦の現在の状態をよく把握し、歯科治療を施行することが大切です。また、妊婦は、歯肉炎や口内炎など口腔内に様々な変化をもたらします。体調に併せて、ブラッシング指導を含めた積極的歯科的管理が重要です。妊娠中毒症(血圧上昇、蛋白尿、初産婦に多い)の可能性も考慮し、最近の血圧やむくみの有無も確認します。

3. 食事をしっかり摂っていますか?

妊婦にとって、食事の摂取は母体だけでなく胎児の成長のためにも重要です。
歯科疾患が原因で食事の摂取に支障が生じている場合、まずはその解決を検討するべきです。

※ 薬剤やエックス線の安全性について

妊娠中期および産後2ヶ月以降(授乳中)の安全な時期で、治療上の有益性が危険性を明らかに上回る場合であっても、薬剤やエックス線の使用については、患者さんに十分に説明し同意を得た後に使用します。各安全性については以下をご確認下さい。

●抗生剤

ペニシリン系、セファム系、マクロライド系のアジスロマイシンがより安全です。テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、クロラムフェニコール、ニューキノロン系、サルファ剤は避けるべきです。

●鎮痛剤

可能な限り、非ステロイド抗炎症薬の使用は控えてください。アセトアミノフェンが比較的安全です。

●局所麻酔

胎盤を通過して胎児血中に移行、また乳汁中にも容易に移行しますが、悪影響を及ぼす可能性は極めて少ないものとなっています。

●エックス線

歯科での使用による被爆量は、問題にならないとされています。しかしながら、撮影回数は可能な限り少なくするように考慮しなければなりません。当然ですが、腹部の遮蔽は必ず行います。

※参考書籍
 「歯科医院のための全身疾患医療面接ガイド」
 監修 柴崎 浩一  メディア株式会社

Q13 妊娠中に問題となる主な口腔内疾患・病態について教えてください。
A13
  • 妊娠性歯肉炎
  • 良性歯肉疾患(化膿性肉芽腫、妊娠性肉芽腫、あるいは妊娠性エプーリスとして知られるもの)
  • 歯の動揺
  • 酸蝕症
  • う蝕
  • 歯周炎

 

American College of Obstetricians and Gynecologists Women’s Health Care Physicians; Committee on Health Care for Underserved Women: Committee Opinion No.569: Oral health care during pregnancy and through the lifespan. Obstet Gynecol, 122: 417~422, 2013.

※参考書籍 「日本歯科医師会雑誌 2020 VOL.73 NO.2」

Q14 閉経後、女性ホルモンの低下によって口腔内に悪影響が出てくると聞きました。どういうことですか?
A14

閉経は、日本人では平均49.5歳と報告されています。もちろん口腔領域においてもホルモン(エストロゲン)レベルの低下は大きな影響を及ぼします。顎骨のみならず歯周組織や唾液腺にもエストロゲン受容体は存在しており、細菌叢の変化や毛細血管の拡張・透過性亢進を来たし、細胞角化やコラーゲン産生の抑制が生じます。エストロゲンは炎症を抑えることから閉経後には炎症が起こりやすくなり、さらに口腔内の免疫応答も低下することが知られています。唾液の分泌も低下させることから、口腔乾燥症、舌痛症(burning mouth syndrome)につながり、う蝕、味覚異常、歯周病などの罹患率が増えるといいます1)

実際、閉経前は6%であった口腔関連の愁訴有症率が、閉経後には43%になり、頻度の高い順に口腔乾燥、潰瘍、口腔灼熱感、味覚異常であったという報告もあり2)、20~90%、平均すると全体の2/3が症状を有すると言われています3)。これらは相互に関連して、歯の喪失にもつながります。

また、このような変化は歯科治療にも影響を及ぼすことが知られており、上顎におけるインプラントの非生着率の比較では、男性においては50歳未満と50歳以上での比較では6.3%から7.6%とほとんど変化がなかったのに対し、閉経後女性では13.6%と、閉経前の6.3%と比較して有意に上昇していたという報告もあります4)

1)Suri Vanita, Suri Varun: Menopause and oral health. J Midlife Health, 5(3): 115~120, 2014.

2)Wardrop RW, Hailes J, Burger H, Reade PC: Oral discomfort at menopause. Oral Surg Oral Med Oral Pathol, 67(5): 535~540, 1989.

3)Paganini-Hill A: Hormone therapy and oral health. Menopause Management, 16(3): 31~40, 2007.

4)August M, Chung K, Chang Y, Glowacki J: Influence of estrogen status on endosseous implant osseointegration. J Oral Maxillofac Surg, 59(11): 1285~1289, 2001.

※参考書籍 「日本歯科医師会雑誌 2020 VOL.73 NO.2」

Q15 閉経に伴う女性ホルモン低下の対応策を教えてください。
A15

最も有効な方法は、低下したホルモン(エストロゲン)を補うホルモン補充療法(HRT)です。

HRTは歯周炎の予防に効果がある可能性があると報告されています1)。さらにHRT施行女性では歯肉出血やプラークが有意に少なかったと報告されています2)。加えて、口腔内の不快感も有意に減少するといいます3)。韓国での検討ではHRT施行女性では歯周病が有意に少ないことも報告されています4)。また、骨量についてはHRTが骨量を増加させることはすでに知られており、顎骨においても例外ではありません。

これらの結果により、HRTは残存歯数を増加させ、義歯や無歯顎のリスクを下げます。

1)Haas AN, Rosing CK, Oppermann RV, Albandar JM, Susin C: Association among menopause, hormone replacement therapy, and periodontal attachment loss in southern Brazilian women. J Periodontol, 80(9): 1380~1387, 2009.

2)Norderyd OM, Grossi SG, Machtei EE, Zambon JJ, Hausmann E, Dunford RG, Genco RJ: Periodontal status of women taking postmenopausal estrogen supplementation. J Periodontol, 64 (10): 957~962, 1993.

3)Streckfus CF, Baur U, Brown LJ, Bacal C, Metter J, Nick T: Effects of estrogen status and aging on salivary flow rates in healthy Caucasian women. Gerontology, 44(1): 32~39, 1998.

4)Lee Y, Kim I, Song J, Hwang KG, Choi B, Hwang SS: The relationship between hormone replacement therapy and periodontal disease in postmenopausal women: a cross-sectional study the Korea National Health and Nutrition Examination Survey from 2007 to 2012. BMC Oral Health, 19(1): 151, 2019.

※参考書籍 「日本歯科医師会雑誌 2020 VOL.73 NO.2」

Q16 赤ちゃんの骨や歯は、いつ頃できるの?
A16

歯の種類(歯種)によって多少の差はありますが、乳歯の歯胚の形成がはじまるのは胎生7~10週頃から、歯の石灰化がはじまるのは胎生4~6ヶ月頃からです。

乳歯の前歯(乳切歯)は、出生時には口腔内に生えてくる部分(歯冠)の4/5くらいまでは形成されていますが、乳歯の奥歯(乳臼歯)は歯冠の一部しか形成されていません。乳歯は出生後に歯冠が完成し、続いて歯根が形成されてくると、徐々に口腔内へと移動してきて、生後半年頃から生え始めます。

また、永久歯の歯胚も胎児の頃からつくられはじめます。6歳頃から生える永久歯の奥歯(第一大臼歯)の歯胚は胎生4ヶ月頃から、永久歯の前歯(永久切歯)の歯胚は胎生5ヶ月頃から、それぞれ形成がはじまります。ただし、永久歯の石灰化がはじまるのは出生時頃からです。

 

※参考書籍
 「プレママと赤ちゃんの歯と口の健康 Q&A」
 井上 美津子  藤岡 万里  医学情報社

 

Q17 つわりがひどくて体調が悪いとき、歯みがきはどうすればいい?
A17

歯みがきが負担になってはいけませんが、「できるときに歯みがきする」くらいの気持ちでいてください。

※参考書籍
 「プレママと赤ちゃんの歯と口の健康 Q&A」
 井上 美津子  藤岡 万里  医学情報社

 

Q18 歯ぐきが、ぷっくり腫れてきた!これって歯肉炎?それとも・・・?
A18

妊娠期に見られやすい歯肉の異常に「妊娠性エプーリス」というものがあります。妊娠性エプーリスとは、妊婦の歯ぐきに発生する良性のエプーリス(歯肉種)の一種です。その発生頻度は0.1~5%前後とされ(文献によって多少、異なりますが)、妊娠性歯肉炎の発症に比べれば、かなり少ないといえます。

妊娠中期に発生することが多く、妊娠性歯肉炎と同様、出産後には自然治癒することがほとんどです。妊娠性エプーリスの発生機序については未だ不明な点も多いですが、現在のところ、妊娠期における女性ホルモンの分泌量の急増(内因的因子)が、歯石、不良充填物、不良補綴物、歯列不正など(局所因子)に影響した結果、歯肉にエプーリス(炎症性反応性増殖物)が形成されると考えられています。

※参考書籍
 「プレママと赤ちゃんの歯と口の健康 Q&A」
 井上 美津子  藤岡 万里  医学情報社

 

Q19 現在妊娠しており授乳中なのですが、レントゲンは大丈夫でしょうか?
A19

 歯科で行われるX線撮影の被爆線量は1年間の自然放射線に比べると、ずっと低いものです。おなかの部分には防護エプロンでカバーしますので、まず心配ありません。

 

※参考書籍
 「プレママと赤ちゃんの歯と口の健康 Q&A」
 井上 美津子  藤岡 万里  医学情報社

Q20 おなかの赤ちゃんが歯周病菌にいじめられるって本当ですか?
A20

実は、歯周病菌の出す毒素の刺激が妊婦さんのおなかにいる赤ちゃんをいじめてしまうこともわかっています。歯周病にかかっている女性が妊娠すると、女性ホルモンが大好物の歯周病菌がお口のなかで活気づいてしまうのです。自分のためだけでなく赤ちゃんのためにも、ふだんから定期的に歯周病のチェックを受けお口のなかの清潔を保ちましょう。歯周病菌の出す毒素に出産のスイッチを早めに押されてしまっては大変です!歯周病を予防しましょう。

※参考書籍 「nico 2013.4 クインテッセンス出版株式会社」

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