小児・妊娠中の治療について
Q31 | 味覚と歯科医療って関係があるのですか? |
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A31 |
「おいしく味わって食べる」ことは人生の大きな喜びの一つです。 味覚はさまざまな口腔感覚によって修飾される複合感覚であり、口腔と切り離して考えることはできません。すなわち、味覚の研究はOral Health Scientistである歯科医師の責務であり、味覚治療はこれから歯科医療と深くかかわると考えられます。 |
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Q32 | 舌突出癖の原因と影響について教えてください。 |
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A32 |
原因1)乳幼児期から長期に続く指しゃぶりがあります。 他にも毛布やタオルなどを噛む習慣があると、上下顎前歯の萌出を妨げ、前歯間にスペースが生じて開咬となります。この結果、嚥下時に上下歯間の間に舌を突出させ口唇を閉鎖します。
2)舌の形態的原因として巨大舌と舌小帯付着異常があります。巨大舌は、口腔容積に対して舌が大きいため前方や側方に突出し、開咬となります。また、舌小帯付着異常は、嚥下時に舌小帯の付着位置の異常から口蓋部に舌尖が挙がらず、低位舌となり嚥下時に前方へ突出します。
3)外傷やむし歯などのために乳歯が早期に喪失したり、永久歯の先天性欠如のため、上下歯間に舌が突出します。下顎骨の著しい過成長(劣成長)や上顎骨の劣成長(過成長)のために、上下顎の歯に隙間を生じ、そこに舌を突出することがあります。また、下顎運動時に歯の早期接触や咬合干渉を避けようとして、歯間に舌をはさみ込ませることがあります。
4)アレルギー性鼻炎、アデノイドや口蓋扁桃肥大などの鼻咽腔疾患があると口呼吸を生じ、気道閉鎖が起こります。このとき気道を確保する必要性から下顎を下げ、舌が低位や前方位をとり、嚥下時に舌を突出します。
5)口腔周囲筋の筋力低下により起こります。歯列弓の外側にある口輪筋や頬筋などの筋力が低下すると内側にある舌の力とバランスが崩れ、歯が必然的に舌によって押され開咬となります。咀嚼筋の弱い人やミオパシー(遺伝性の筋の変性疾患。筋肉の機能が失われる難病。)では、著しい開咬となり舌突出が認められます。
歯と歯槽骨に働いている口唇、舌および頬の平衡力※グレーバー著、中後ほか訳:歯科矯正学より引用 口腔周囲諸筋が歯列弓に及ぼす形態形成圧※グレーバー著、中後ほか訳:歯科矯正学より引用
影響・開咬症状になる ・ぺリオやTMD(顎関節症)の原因になる ・口唇閉鎖がしにくい ・発音が不明瞭 ・上顎歯列の狭窄 ・口もとや外見が悪い ・咬筋・口輪筋が弱い ・矯正治療を妨げる ・食べ物を噛みにくい ・舌位や口唇位を変える
※参考書籍 |
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Q33 | 息子の口臭が気になり、口の中を見ましたが、舌が白っぽくなっています。これは何でしょうか? |
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A33 |
それは舌苔です。 ■舌苔とは舌表面に付着した細菌叢や剥離上皮、食物残渣、白血球などの総称です。 この舌苔が口臭症の一因と考えられるのは、その位置的関係が咽頭、鼻腔と接近しており、舌背部、舌根部に付着した舌苔が直接匂いの原因となるからです。その舌苔を取り除くことにより、う蝕、歯周疾患および口臭の予防と改善、同時に味覚の回復にもつながると考えられています。ちなみにカンジダなどの真菌類も舌苔中に存在しているため、ブラッシングの必要がないとされる総義歯の患者さんの場合も、舌ケアと義歯の清掃が不十分であれば、カンジダ菌による義歯性口内炎を発症させるのです。
■舌苔を形成する要因舌の機能は、唾液の清掃作用、咀嚼の機械的作用、正常細菌叢および適当な栄養によって、正常に保たれていますが、口腔環境の変化、種々の疾病、薬物の常用などにより、この機能バランスが崩れることがあります。このような事態になると、瞬く間に舌苔が形成されます。 具体的な原因として、 1.唾液の分泌量の不足 2.咀嚼が不十分な時 3.経管栄養で口腔をほとんど使わない時 4.舌運動の麻痺 5.正常粘膜の保持に必要なビタミンの不足 などが考えられます。 ■その他の口臭の原因口臭の原因は必ずしも舌苔だけにとどまりません。う蝕、歯垢、歯周疾患、その他多くの口腔環境が、その原因となっています。胃腸障害などの消化器疾患に罹患した時、独特の口臭があることは、よく知られています。またその他の疾患でも、特有の口臭を放つことがあります。例えば、口腔、鼻咽頭器官の感染症、あるいは腫瘍、気管支拡張症あるいは肺腫瘍、肝臭を伴う肝硬変、糖尿病などです。 このような疾患によって生ずる口臭は、局所を原因としていないため、完全に取り去ることは難しいです。だからと言って舌ケアを諦めるのではなく、舌を清潔に保つという本来の目的を継続し、含嗽剤を利用することによって、口腔内の清潔を維持していかなくてはなりません。
■舌ケア用品の種類数年前に比べると舌ケア用品の種類も増え、どこの店でも入手できるようになりました。ブラシ型、ヘラ型、板型などに分けられますが、使用感はそれぞれ異なるため、舌苔の付着部位やそのつき方により自分に合ったものを選びましょう。実際に使用してみると、使いやすさや使用感の違いが分かります。 1)ブラシ型舌表面には極小の乳頭が存在するため、それらの細かな溝を清掃するのに適した形です。メーカーによりブラシの形状や厚み、植毛状態、毛の硬さなど数種類あります。耐久性は歯ブラシよりも長く、毎日使用した場合、約2ヶ月です。 2)ヘラ型・板型舌背部の表面に付着した舌苔をはがし取るといった感じで、舌苔特有の滑りを除去するのには大変効果的です。しかし、乳頭の細かな溝には届かないため、舌の状態、滑りの有無などによりブラシ型と使い分けるとよいでしょう。 ※参考書籍 |
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Q34 | 昔、矯正治療で反対咬合を治療しました。せっかく治ったのに成長とともに再発してきました。どうしたらいいですか? |
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A34 | 第一期の矯正治療で改善した後、反対咬合が再発した場合は、成長終了後まで経過観察が必要です。 成長期中に第二期の矯正治療が行われた場合、下顎骨成長によっては、治療期間の延長や治療途中での計画変更をすることがあるためです。
※参考書籍 |
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Q35 | 味覚は変わるのですか? |
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A35 |
幼稚園に通っていた頃を思い出してみてください。 「甘い=おいしい」「苦い=まずい」だったような記憶があります。その頃、父親の酒の肴をつまみ食いしたことはありませんか?「どこがおいしいのだろう?まずい!」と思ったかもしれませんね。しかし、その味が歳をとってから大好物になることもよくあります。すなわち大人になってからわかる味もあるのです。 「味」とは味蕾からの科学的な情報だけではありません。年齢、記憶、匂い、習慣、環境などが大きく作用してその個人特有の味覚を作りだし、そして変化していきます。
※参考書籍 |
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Q36 | 子どもの写真を撮ってもらったら、上の真ん中の所に過剰歯があると言われました。どうしたらよいでしょうか? |
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A36 | 上顎正中部の過剰歯は埋伏していることが多く、上顎前歯の離開、萌出障害、周囲の歯の歯軸の傾斜や捻転などの原因となります。 永久歯の前歯が生えてくるため、このような障害の原因となる場合には、永久前歯根尖部の形成が完了する時期の7~8歳ぐらいを目途に抜歯を考慮したほうがよいでしょう。(歯根完成後では永久歯の矯正治療が必要になることが多いため) 上顎正中部の過剰埋伏歯はその80%が口蓋側に存在し、歯列内に存在するのは約15%、唇側に埋伏するのはわずか5%程度です。埋伏歯の位置を正確に把握するためにCT撮影を実施したほうがよいでしょう。 また、次のような状況では、抜歯が必要となります。
※参考書籍 「床矯正研究会 2016」 「口腔外科ハンドマニュアル’20 日本口腔外科学会編」 クインテッセンス出版株式会社 |
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Q37 | 歯並びの悪さは遺伝するの? |
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A37 | 歯の大きさは遺伝しますが、歯並びはアゴの骨の発育次第です。 歯の大きさを決定する因子は親譲りですが、歯を支えるアゴの骨の大きさは、18歳までの発育段階で決まっていきます。アゴの骨を小さくする主な要因は、咀嚼回数の少なさや歩行回数の少なさといった、子供の頃の生活習慣です。アゴの骨が小さいまま大人になったけど、アゴに収まる歯の大きさは変わらないので、必然的に八重歯や乱杭歯になるのです。 遺伝要因が強い部位・顔の長さ(丸顔や面長など) ・鼻の形 ・唇(大きさや厚み) 環境要因が強い部位・歯並び ・顎の形
※参考書籍 「歯科に役立つ遺伝学」 |
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Q38 | 味覚障害者はどのくらい存在するの? |
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A38 |
ある大学の口腔診断科では、年間総数約12,000名の新来患者の中で、味覚障害を主訴として当科を受診する新来患者数は約50名程度であったという調査結果があります。 数値だけ見ると少ないように思われるかもしれませんが、この数は味覚障害を主訴として来院した患者さんの数であり、その他の主訴で来院した患者さんの中にも問診をしてみると味覚障害を抱える患者さんは数多くいます。 つまり、実際の味覚障害者は潜在的に数多く存在しているのですが、味覚障害を主訴として歯科医療機関を訪れる患者は少ないのが現状です。 また、味覚障害を主訴として最初に歯科を受診する患者は30%程度と少なく、残りの70%は内科や耳鼻咽頭科等を先に受診し原因不明と診断され治療も施されていない場合も少なくありません。 このような患者さんの中には、歯科的な診断・治療によって味覚が改善したケースも多く、歯科領域にとって味覚診療は重要です。
他にも次のような調査結果があります。 高齢者の味覚障害養護老人ホームに入居し健常者と同様の自立した生活をおくっている65歳から94歳の高齢者71名(男性19名、女性52名)を対象とした味覚検査
味覚異常感を自覚している者は71名中9名(12.7%)と少なく、味覚障害者の多くは味覚異常感を自覚していなかった。
若年者の味覚障害大学歯学部入学直後の学生153名(男子103名、女子50名)を対象とした味覚検査
味覚異常感を自覚している人は7.9%と少なく、味覚障害者の多くは味覚異常感を認識していなかった。
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Q39 | 「むし歯は一度できると進む一方だ」とこれまで思い込んでいましたが、止まったり、治ったりするのですか? |
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A39 | 穴が開いてしまったら難しいですがCOの段階なら止めることができますし、うまくいけば健全歯にもどすこともできます。むし歯には慢性型と急性型があり、慢性型は進行しにくく管理しやすいです。
少し前まではむし歯は「一度できてしまったら悪くなる一方だ」「早く削って詰めたほうがいい」と信じられてきました。しかし現在ではむし歯学の研究が進み、むし歯の抑制法のエビデンスが確立されています。その結果、軽々に削って詰めたりしないほうがいいことが明らかになっています。
ある地域の児童生徒(小学1年生~中学1年生)のCOを2年間追跡した調査結果があります。 「COと診断され経過観察を続けた結果、2年後には53%はCOのまま進行が停止しており、35%は健全歯に戻っていた。削る治療が必要になったケースは12%にとどまった。」 このことからも分かるように削って詰める前に、指導と経過観察を受けることがとても重要です。
※参考書籍 「nico 2016.4 クインテッセンス出版株式会社」 |
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Q40 | 味覚障害の原因について教えてください。 |
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A40 |
味覚障害の研究(冨田寛先生)により、味覚障害の多くは次の4つが原因とされています。 1.薬剤性 2.亜鉛欠乏性 3.全身性 4.特発性 この4つの原因で味覚障害の70%程度が占められているそうです。
実際の歯科医院によると、口腔に原因のある味覚障害が大半を占め、入れ歯などの補綴物、歯周疾患、口腔粘膜疾患などに対する歯科治療で改善するケースも多くみられたという報告もあります。
歯科を受診する味覚障害患者の特徴・内科や耳鼻科で原因が特定できないケースが多い ・単一因子ではなく複数の因子が原因となるケースが多い ・口腔疾患が要因となるケースが多い ・唾液分泌低下と関連するケースが多い ・歯科治療、口腔内科的治療によって改善するケースがある
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