他疾病の治療中の方

Q151 現在透析を行っていますが、歯科治療は可能ですか?可能な場合、どのタイミングで行ったらよいですか?
A151

まず、透析を受けている場合に歯科治療はできるのか?について説明します。

歯周治療では抗菌薬を投与することがあり、抗菌薬の種類によっては体内からの排泄速度に影響を与えるものがあります。そのため、歯周治療に伴う抗菌薬などの投与に関しては、主治医に相談し、適切なものを選択する必要があります。また、透析日は抗凝固剤服用の可能性があるため、観血的な歯周治療は避けるなどの対応が必要になります。

次に、歯科治療のタイミングについて説明します。

移植前(血液透析時)は、ヘパリンなどの抗凝固薬を服用しており止血困難が予想されます。また、免疫機能の低下により、易感染性です。抜歯などの観血的な歯科治療は、血中の老廃物の除去や電解質補正が行われている透析の翌日に行います。感染予防に対して1時間前に抗菌薬の投与を行い、血中濃度を上昇させておきます(*)。抗菌薬は、腎機能が低下していると血中濃度が上昇し、有害事象が起こりやすくなったりするため、クレアチニンクリアランスに応じて、投与の減量や投与回数の減少を行わなければなりません。

腎移植の術後6カ月以降は、観血的処置を含めた通常の歯科治療は基本的に可能となります。

*椙山加綱. 慢性腎臓病患者の歯科治療. In: 西田百代 監修. 椙山加綱 著. 有病高齢者歯科治療のガイドライン 上. 東京: クインテッセンス出版, 2013: 228-247.

 

腎移植前(血液透析患者)の歯科治療時の注意点

1.易感染性

観血的処置は、術前1時間前に抗菌薬の投与を行う。

 

2.易出血性

ヘパリンなどの抗凝固薬を使用しているため、十分な止血を行う。抜歯時などは止血用シーネの作製や縫合を行う。

 

3.血圧

血圧が高いこともあるため、必要に応じてモニタリングを行う。血圧は、シャントを造設している反対側の腕で測定する。

 

4.歯科治療の時期

透析の翌日に行う。

 

5.抗菌薬の投与

腎排泄性の薬剤は、投与量の減量や投与感覚の延長を行う。

 

6.鎮痛薬の投与

非ステロイド性鎮痛薬(NSAIDs)は避け、アセトアミノフェンを用いる。

 

※参考書籍
 「歯周治療の指針2015」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会


 「周術期等口腔機能管理の実際がよくわかる本」
 編著 梅田正博/五月女さき子  クインテッセンス出版株式会社

Q152 糖尿病でも歯が悪くならないように歯周病予防をしたいと思います。どんなことに気をつけるとよいですか?
A152

毎日のブラッシングをていねいにすること。そして、半年に一度は定期健診においでください。歯周ポケットに隠れた歯石やプラークは自分では取り切れません。
プロの技で、きれいにしてもらいましょう。

※参考書籍 「nico 2011.5 クインテッセンス出版株式会社」

Q153 視力と歯はどのような関係があるのですか?
A153

「歯」が脳の機能を守るために大きく関与しているとしたら、どのような機能に影響を及ぼしているのでしょうか?

その一つとして、“食物の軟化が視力に影響しているのではないか”ということについて十数年間研究が続けられています。

研究結果によると、「5歳のときに噛む力が弱い人は、5年後10歳になっても弱いままである。そのためには離乳期からの咀嚼のトレーニングが必要である。ただし、このトレーニングには市販の離乳食では無理であり、その理由の一つとして、親が食べないものを子どもに与えることに問題があり、このことは、ひいては食文化の伝承も絶たれてしまうことになる」と危惧しています。

※参考書籍

 島田 彰夫:縦断的に見た視力低下の現状とその要因 民族衛生
 56(5):229-235, 1990

 「臨床家のための矯正YEAR BOOK ’03 いま、「矯正臨床」の実像を探る」
 編集 花田晃治/伊藤学而/中島榮一郎
 クインテッセンス出版株式会社

Q154 糖尿病と歯周病の関係性について教えてください。
A154

糖尿病だと歯周病になりやすいことはご存知のかたも多いかと思います。

厳密にいうと、糖尿病に併発する歯周病は、糖尿病が原因で発症するものではありません。糖尿病による免疫系機能障害、末梢血管循環障害などが歯周病を引き起こします。

つまり、免疫機能が低下するため、細菌感染を起こしやすくなるからです。歯周病は細菌感染によって起こる病気で、そのため糖尿病のかたは歯周病になりやすいのです。

糖尿病になるとからだの抵抗力が落ちるため歯周病などの細菌感染が起きやすいのです。

最近の研究では、その逆で、歯周病で糖尿病が悪化しやすいことも解明されつつあり注目されています。
歯周病菌の出す毒素とからだの免疫機能が戦うと、インスリンの働きを鈍らせる物質が出て、血糖値のコントロールが難しくなるからだと考えられています。
どうやら、歯周病と糖尿病は双方向に悪さをし合っているようです。
運動しても食事療法をしても糖尿病がよくならなかった人が、歯周病の治療をしたら血糖値が下がったなど糖尿病のデータが改善した、という研究結果が出ています。
糖尿病のかたは歯周病の治療もお忘れなく!

歯周病を取りまく背景と、糖尿病を取りまく背景は酷似しています。
食事や運動、ストレス、喫煙などのライフスタイルは共通項です。
ですので、歯周病だけよくなって糖尿病は悪くなるとか、歯周病は悪化の一方だけど糖尿病はずいぶんよくなった、というようなことは起こりにくいのです。
つまり、“ライフスタイル”という視座に立つと、糖尿病と歯周病はよくなるときも悪くなるときも同じ方向を向いていると考えられます。

糖尿病と歯周病の関係性

糖尿病になると、歯周病の発症が2.6倍((1))、歯槽骨の吸収度が3.4倍((2))になると報告されています。

歯周病は糖尿病に限らず、心筋梗塞、動脈硬化などを悪化させることもわかってきています。
お口の健康はもちろん、全身の健康のためにも、歯周病の治療を早期にはじめましょう!

※参考書籍
 「nico 2013.4 クインテッセンス出版株式会社」
 「nico 2011.9 クインテッセンス出版株式会社」
 「ペリオバカ養成講座~学びの門戸を開くための100の質問~」
  山本浩正 著 医歯薬出版株式会社
 「nico 2011.5 クインテッセンス出版株式会社」
 「歯周治療の指針2015」
 特定非営利活動法人 日本歯周病学会

Q155 私には糖尿病の持病があります。糖尿病だと、歯周病の治療をしてもなかなか治らないと聞きましたが・・・。
A155

たしかに糖尿病は感染症にかかりやすく症状が悪化しやすい病気です。
でも、きちんとプラークと歯石を取り、メインテナンスで上手に管理すれば大丈夫です。

※参考書籍 「nico 2009.2 クインテッセンス出版株式会社」

Q156 どのようなことに注意して糖尿病患者を治療していますか。
A156
1.

経口血糖降下薬やインスリンを使用している場合は低血糖が起こらないように食事時の診察を避ける必要があります。

2.

特に低血糖を起こしやすい場合は一回の治療時間が長くならないように配慮しています。

3.

糖尿病患者は歯を抜いたときや外科処置をした時に治癒が遅くなります。
そのため、歯を抜くような場合や外科処置をする場合は糖尿病の状態を確認します。
(血糖コントロールの指標は明確ではありませんが、比較的悪影響の少ない歯周外科治療では術前HbA1c(NGSP)7.0%未満を参考としております。)

4.

健康者では抜歯の後に抗生物質を服用する必要がないこともありますが、 糖尿病患者では免疫の機能が低下し、病気を引き起こす細菌やウイルスなどの病原菌に感染しやすくなっているため、 抗生物質を服用して感染を予防する必要があります。

5.

アドレナリン含有の歯科局所麻酔薬を使用すると一過性に血糖値が上昇します。
健康者と同様に糖尿病患者でもそのように考えられていますが、安全性については完全には実証されていません。
しかし、内科的に良好な血糖コントロールをされている糖尿病患者では概ね安全に使用する事ができると言われています。
なお、未治療あるいはコントロール不良の糖尿病患者については、まず内科への血糖コントロール依頼を推奨します。
これらの患者様の治療で局所麻酔を避けられない場合にはアドレナリン非含有(フェリプレシン含有)の歯科局所麻酔薬の使用を考慮する必要もあります。

Q157 BP製剤(ビスホスホネート製剤)を飲んでいますが、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)になりやすいと言われました。どんなことに気をつけたらいいですか?
A157

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)は病態的に「骨髄炎型」「骨壊死型」の2種類に分類できると考えられています。

「骨髄炎型」は無菌性・虚血性の病態で、骨吸収抑制薬単独の副作用です。

一方、「骨髄炎型」は歯性感染症に由来する細菌性骨髄炎が先行し、骨吸収抑制薬が病態を修飾しているリスクが考えられます1)

ARONJのリスク因子は次のようなものがあります。

1.局所的要因

  • 骨への侵襲的歯科処置
  • 不適合義歯、過大な咬合力
  • 口腔衛生状態の不良、歯周病、歯肉膿瘍、根尖性歯周炎などの炎症性疾患

 

2.骨吸収抑制薬

 投与量および投与期間

3.全身的要因

 加齢、がん、糖尿病、関節リウマチ、他

4,遺伝的要因

 MMP-2、チトクローム P450-2などのSNP

5.ライフスタイル

 喫煙、飲酒、肥満

6.併用薬剤

 抗がん剤、副腎皮質ステロイド、他

このように、ARONJは複数のリスク因子が重複して発症します2)。また、加齢もリスク因子の一つと考えられ3),4)、加齢が引き起こす骨の老化には酸化ストレスが関連しています5),6)

骨吸収抑制薬を高用量で投与する悪性腫瘍の患者さんでARONJ発症率が高いこと、骨粗鬆症に対する低用量でもBP投与が4年を超えると発症率が一気に高まること7)から、現在のところ累積投与量がリスクであると思われます。

理想的な対応としては、骨吸収抑制薬を飲む前に抜歯を含めた歯科治療を行い、感染リスクを減らしておくことです。

すでに骨吸収抑制薬を飲んだ後でも、抜歯以外の一般的な歯科治療は通常通り行うことができます。抜歯などの外科処置が必要な際は、累積投与量が少ないうちに完了させておくことが大切です。BP製剤投与期間4年以上やステロイド併用がある場合はARONJ発症リスクが高くなるので、専門施設で抜歯されるといいです。

1)岸本裕充. MROMJに関する論点とは?. 柴原孝彦, 岸本裕充, 矢郷 香, 他. 薬剤・ビスホスホネート関連顎骨壊死MRONJ・BRONJ, 東京:クインテッセンス出版, 2016.

2) 顎骨壊死検討委員会. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016.

3)Bamias A, Kastritis E, Bamia C, et al. Osteonecrosis of the jaw in cancer after treatment with bisphosphonates: incidence and risk factors. J Clin Oncol 2005; 23: 8580-8587.

4)Marx RE, Sawatari Y, Fortin M, et al. Bisphosphonate-induced exposed bone (osteonecrosis / osteopetrosis) of the jaws: risk factors, recognition, prevention, and treatment. J Oral Maxillofac Surg 2005; 63: 1567-1575.

5)Almeida M, Han L, Martin-Millan M, et al. Skeletal involution by age-associated oxidative stress and its acceleration by loss of sex steroids. J Biol Chem 2007; 282: 27285-27297.

6)Almeida M, O’Brien CA. Basic biology of skeletal aging: role of stress response pathways. J Gerontol Biol Sci Med Sci 2013; 68: 1197-1208.

7)Ruggiero SL, Dodson TB, Fantasia J, et al. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons positions paper on medication-related osteonecrosis of the jaw 2014 update. J Oral Maxillofac Surg 2014; 72: 1938-1956.

※参考文献
 「日本口腔インプラント学会誌 2019 年 32 巻 1 号 p. 20-26」
  口腔インプラント医が知っておくべき骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の知識:玉岡 丈二 高岡 一樹 岸本 裕充

Q158 舌が黒いのですが、なぜでしょうか?
A158

舌が黒くなるのは様々な原因が考えられます。代表的なものを治療法・対処法と合わせてご説明します。

舌が黒くなる病気・原因と治療法・対処法

黒毛舌

服用している抗菌薬の服用ストップ(ただし、処方した医師の確認が必要です)

 咬舌による内出血

自然治癒を待つ、そして噛まないように気を付ける

 悪性黒色腫

早期に外科手術(舌にできることはあまりないですが、黒い斑点となり現れます。)

 メラニン色素

原病(副腎)の治療と、副腎皮質ホルモン製剤等の投与とともに、栄養の改善を図る

 血小板が少ない

原因・治療も様々

 着色

飲食物・嗜好品により着色することがあります。
この場合は舌ブラシを使って落とすことができます。

「Q&A 舌の清掃方法を教えてください。」はこちら

 

これらを防ぐためには、日頃からしっかりお口の中を清潔に保つことが非常に重要です。ご自身では気づかないことをチェックしてもらうためにも、問題がない場合でも定期検診を受診するように心がけましょう

 

※参考サイト

「どくらぼ ~舌が黒いあなたが注意すべき問題と、その原因」

Q159 インフルエンザが重症化するリスクがあるって本当ですか?
A159

本当です。次のような方は重症化するリスクがあります。

  • 慢性呼吸器疾患のある人
  • 慢性心疾患のかる人
  • 糖尿病などの代謝性疾患のある人
  • 腎機能障害のある人
  • ステロイド内服などによる免疫機能不全のある人
  • 妊婦
  • 乳幼児
  • 高齢者

 

※参考書籍
 「月刊 糖尿病ライフ さかえ 2020年2月号」
 日本糖尿病協会

Q160 舌痛症ってどんなもの?
A160

舌に疼痛ないし違和感を訴える疾患の中で、器質的(肉眼的)な変化が見られず、さらに神経痛や関連痛等を除いた、いわゆる“原因不明”の舌痛症状が持続する病態「舌痛症」といいます。

舌痛症の特徴

1.男女比は1:4~1:8で女性、特に40~50歳の中高年の発症例が多い

2.痛みの訴えは舌尖、舌縁に多い

3.歯科治療が発症のきっかけとなることがある

4.痛みの表現が「ヒリヒリ」「ピリピリ」「チリチリ」など、疼痛より異常感を感じる

5.この異常感は、食事のときには消失するか軽減する

6.飴やガムなどを常食して痛みを和らげている

7.QOL(生活の質)には影響しないが、一日中、切実に悩んでいる

8.仕事や好きなことなど何かに集中している時には感じず、何もしていないときに強く感じる

9.感じる部位に意識を向け、セルフモニタリングを常にしている

10.手鏡などで舌の形態・色調を頻繁に観察する

11.舌粘膜の一部や舌苔を舌癌ではないかと疑い、「癌恐怖」を伴うことがある

 

※参考書籍
 「対応に困る患者さんたち」
 岡田 智雄 著  株式会社 ヒョーロン・パブリッシャーズ

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