骨粗鬆症

Q31 MRONJ患者への歯肉炎や歯周炎の治療(歯周治療)はしてもよいのでしょうか?
A31

歯周治療は非外科的アプローチが基本となります。

ポケットプロービングとスケーリング・ルートプレーニングについては通常通り行ってよいと考えられています。

また、わずかな骨整形をともなう侵襲性の低い歯周外科手術であれば行うことは可能かもしれません。

MRONJのリスク因子は、下記を参考にしてください。

Q. MRONJのリスク因子は何ですか?

※参考書籍
 「MRONJのリスクがある患者の歯科治療を行う時に読む本」
 著 黒嶋伸一郎、澤瀬隆、米田俊之
 クインテッセンス出版株式会社

 

Q32 MRONJハイリスクで薬剤を使用しています。抜歯はしてもよいでしょうか?
A32

保存不可能は歯は抜歯すべきで、場合によっては予後不良な歯も抜歯を検討します。

 

※参考書籍
 「MRONJのリスクがある患者の歯科治療を行う時に読む本」
 著 黒嶋伸一郎、澤瀬隆、米田俊之
 クインテッセンス出版株式会社

 

Q33 薬剤の種類、投与方法、投与期間によってMRONJのリスクは変わるのですか?
A33

■薬剤の種類や投与期間によりMRONJの発生頻度は異なります。

■これまではビスフォスフォネート静注薬が投与されている悪性腫瘍の患者さんでの顎骨壊死発生率は、ビスフォスフォネート経口薬投与の患者さんに比べて高いというデータがありましたが、2016年には「経口薬と注射薬は同等の発症」とされています。

■ビスフォスフォネートあるいはデノスマブの投与期間が長いほど、顎骨壊死のリスクが高くなります。

■血管新生阻害薬(スニチニブ、ソラフェニブ、ベバシズマブ、シロリムス)も顎骨壊死を誘発します。

 

※参考書籍
 「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死 MRONJ・BRONJ」
 著・訳 柴原 孝彦  クインテッセンス出版株式会社

 「外来・訪問診療のためのデンタル・メディカルの接点」
 クインテッセンス出版株式会社

Q34 ビスフォスフォネート(BP)の種類について教えてください。
A34
製品名 一般名 経口 静注
(注射)
適応
ダイドロネル エチドロネート 〇(2週間投与・10~12週間休薬を繰り返す)   骨粗鬆症
異所性骨化
骨ページェット病
アレディア パミドロネート   〇(4週1回) 悪性腫瘍
フォサマック アレンドロネート 〇(1日1回あるいは1週1回)   骨粗鬆症
ボナロン アレンドロネート 〇(1日1回あるいは1週1回) 〇(4週1回) 骨粗鬆症
テイロック アレンドロネート   〇(4週1回) 悪性腫瘍
ボンビバ イバンドロネート   〇(1月1回) 骨粗鬆症

ベネット
アクトネル

リセドロネート 〇(1日1回、1週1回あるいは1月1回)   骨粗鬆症
ボノテオ
リカルボン
ミノドロネート 〇(1日1回あるいは4週1回)   骨粗鬆症
ゾメタ ゾレドロネート   〇(3~4週1回) 悪性腫瘍

 

※参考書籍
 「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死 MRONJ・BRONJ」
 著・訳 柴原 孝彦  クインテッセンス出版株式会社

Q35 ビスフォスフォネート関連顎骨壊死のリスク因子にはどんなものが考えられますか?
A35

A.薬剤によるもの(骨吸収抑制薬の種類、投与経路)

■窒素含有ビスフォスフォネートのほうが、非含有(エチドロネートなど)よりもハイリスク

■累積投与量

 

B.局所的要因

■根尖性歯周炎・歯周病の存在

■侵襲的歯科処置(主に抜歯)

■口腔衛生状態の不良

■骨隆起(被覆粘膜が菲薄で、骨露出を生じやすい)

■義歯による褥瘡性潰瘍

 

C.全身的要因および併用薬剤

■糖尿病の合併

■コルチコステロイドの全身投与

■抗がん剤・免疫抑制薬

■血管新生阻害薬

■喫煙・飲酒

■その他、高齢・口腔衛生状態の不良

 

D.遺伝的要因

■SNPs(MMP-2、チトクロームP450-2Cなど)

 

※参考書籍
 「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死 MRONJ・BRONJ」
 著・訳 柴原 孝彦  クインテッセンス出版株式会社

 「歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本」
 クインテッセンス出版株式会社

Q36 MRONJに罹患したのですが、どんな治療法があるのでしょうか?
A36

リスクを有する患者

MRONJステージング

■明らかな骨壊死を認めないが、経口的または経静脈的に骨吸収抑制薬や血管新生阻害薬が投与されている患者

治療法

■治療の必要はない

■患者の教育

 

ステージ0

MRONJステージング

■骨壊死を認めないが、非特異的な臨床所見やエックス線学的変化や症状がある

治療法

■鎮痛薬、抗菌薬使用などの全身的管理

 

ステージ1

MRONJステージング

■無症状で感染をともなわない骨露出や骨壊死またはプローブで骨を触知できる瘻孔

治療法

■抗菌性洗口薬の使用

■3カ月ごとの経過観察

■患者教育とビスフォスフォネート投与の適応についての再評価

 

ステージ2

MRONJステージング

■感染をともなう骨露出、骨壊死またはプローブで骨を触知できる瘻孔

■骨露出部に疼痛、発赤をともない、排膿がある場合と、ない場合がある

治療法

■抗菌薬による対症療法

■抗菌性洗口薬の使用

■疼痛コントロール

■軟組織への刺激を軽減させるためのデブリードマンと感染対策

 

ステージ3

MRONJステージング

■疼痛、感染また1つ以上の下記の症状をともなう骨露出、骨壊死またはプローブで触知できる瘻孔

■歯槽骨を越えた骨露出、骨壊死(例えば、下顎では下顎下縁や下顎枝にいたる。上顎では上顎洞、頬骨にいたる。)その結果、病的骨折や口腔外瘻孔、鼻・上顎洞口腔瘻孔形成や下顎下縁や上顎洞までの進展性骨溶解

治療法

■抗菌性洗口薬の使用

■抗菌療法と疼痛コントロール

■感染ならびに疼痛を長期的に軽減させるための外科的デブリードマン/切除

 

※MRONJステージング

顎骨の放射線療法の既往がない骨吸収抑制薬と/または血管新生阻害薬を投与された患者で、顎顔面領域に8週間以上治癒しない、骨露出やプローブで触知できる骨

 

※治療法

病期に関係なく、分離した腐骨片は非病変部の骨を露出させることなく除去するべきである。露出壊死骨内の症状のある歯は、抜歯しても壊死過程が憎悪することはないと思われるので、抜歯を考慮するべきである。

 

※参考書籍
 「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死 MRONJ・BRONJ」
 著・訳 柴原 孝彦  クインテッセンス出版株式会社

Q37 顎骨壊死を誘発する薬剤にはどんなものがありますか?
A37

骨吸収抑制薬と血管新生阻害薬に加え、さまざまな薬剤がその可能性をもっています。

しかし、すべての骨粗鬆症治療薬がMRONJを引き起こすわけではありません。顎骨壊死を引き起こすことがはっきりとわかっている薬剤は、BP製剤とデノスマブの2種類だけ1)~4)です。

BP製剤とデノスマブ以外の薬剤は、その病理組織像を詳細に調べていないことや報告数が少ないため、あえて「MRONJに類似した疾患」としています。

骨粗鬆症や悪性腫瘍などの患者さんはBP製剤やデノスマブを投与していることもありますので、問診にてお聞きしたり、お薬手帳を見たり、または医科主治医に紹介状を書いたりして確認します。

 

薬剤の適応症

骨吸収抑制薬は、次のために使用されます。

1.悪性腫瘍の高カルシウム血症

2.乳がん・前立腺がん・肺がんなどの固形腫瘍における骨転位に関連した骨関連事象

(skeletal related event:SRE)

3.骨密度を増加して骨折の予防

 

ビスフォスフォネート経口薬は、骨粗鬆症治療の第1選択薬のため、超高齢社会の日本では頻用されています。慢性関節リウマチなどでコルチコステロイドを投与している患者さんでは、コルチコステロイド性骨粗鬆症を予防するためにビスフォスフォネートを投与している場合があります。

 

血管新生阻害薬は、胃・腸腫瘍、腎細胞がん、膵神経内分泌腫瘍、非小細胞肺がん、肝細胞がんなどに有効です。

 

※骨関連事象(SRE)とは?

痛み、病的骨折、脊髄圧迫、高カルシウム血症は、がんの骨転位に伴う症状です。

この痛みを除く、1.病的骨折、2.脊髄圧迫、さらにこれらに関連した3.放射線療法、4.外科療法、を合わせた4つの事象(高カルシウム血症を含めることがある)をまとめて、骨関連事象(skeletal related event:SRE)と称します。骨転移診療ガイドラインでは、ゾレドロネート、パミドロネート、デノスマブは、骨転移を有する肺がん、乳がん、前立腺がん、多発性骨髄腫に対して、SREを抑制するために有効であるとされています。

1)Ruggiero SL, Dodson TB, Aghaloo T, Carlson ER, Ward BB, Kademani D. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons’ Position Paper on Medication-Related Osteonecrosis of the jaw 2022 Update. 2022. Doi: https://doi.org/10.1016/j.joms.2022.02.

2)Ruggiero SL, Dodson TB, Fantasia J, Goodday R, Aghaloo T, Mehrotra B, O’Ryan F; American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons’ Position Paper on medication-related osteonecrosis of the jaw 2014 Update. J Oral Maxillofac Surg 2014; 72(10): 1938-1956.

3)Aliya A Khan, Archie Morrison, David A Hanley, Dieter Felsenberg, Laurie K McCauley, Felice O’Ryan, Ian R Reid, Salvatore L Ruggiero, Akira Taguchi, Sotirios Tetradis, Nelson B Watts, Maria Luisa Brandi, Edmund Peters, Teresa Guise, Richard Eastell, Angela M Cheung, Suzanne N Morin, Basel Masri, Cyrus Cooper, Sarah L Morgan, Barbara Obermayer-Pietsch, Bente L Langdahl, Rana Al Dabagh, K Shawn Davison, David L Kendler, George K Sándor, Robert G Josse, Mohit Bhandari, Mohamed El Rabbany, Dominique D Pierroz, Riad Sulimani, Deborah P Saunders, Jacques P Brown, Juliet Compston; International Task Force on Osteonecrosis of the Jaw. Diagnosis and management of osteonecrosis of the jaw: a systematic review and international consensus. J Bone Miner Res 2015; 30(1): 3-23.

4)厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル(平成30年6月改訂版):ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死(平成21年5月). https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1l01.pdf(2022年5月16日アクセス)

※参考書籍
 「薬剤・ビスフォスフォネート関連顎骨壊死 MRONJ・BRONJ」
 著・訳 柴原 孝彦  クインテッセンス出版株式会社

 「MRONJのリスクがある患者の歯科治療を行う時に読む本」
 著 黒嶋伸一郎、澤瀬隆、米田俊之
 クインテッセンス出版株式会社

Q38 BP製剤(ビスホスホネート製剤)を飲んでいますが、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)になりやすいと言われました。どんなことに気をつけたらいいですか?
A38

骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)は病態的に「骨髄炎型」「骨壊死型」の2種類に分類できると考えられています。

「骨髄炎型」は無菌性・虚血性の病態で、骨吸収抑制薬単独の副作用です。

一方、「骨髄炎型」は歯性感染症に由来する細菌性骨髄炎が先行し、骨吸収抑制薬が病態を修飾しているリスクが考えられます1)

ARONJのリスク因子は次のようなものがあります。

1.局所的要因

  • 骨への侵襲的歯科処置
  • 不適合義歯、過大な咬合力
  • 口腔衛生状態の不良、歯周病、歯肉膿瘍、根尖性歯周炎などの炎症性疾患

 

2.骨吸収抑制薬

 投与量および投与期間

3.全身的要因

 加齢、がん、糖尿病、関節リウマチ、他

4,遺伝的要因

 MMP-2、チトクローム P450-2などのSNP

5.ライフスタイル

 喫煙、飲酒、肥満

6.併用薬剤

 抗がん剤、副腎皮質ステロイド、他

このように、ARONJは複数のリスク因子が重複して発症します2)。また、加齢もリスク因子の一つと考えられ3),4)、加齢が引き起こす骨の老化には酸化ストレスが関連しています5),6)

骨吸収抑制薬を高用量で投与する悪性腫瘍の患者さんでARONJ発症率が高いこと、骨粗鬆症に対する低用量でもBP投与が4年を超えると発症率が一気に高まること7)から、現在のところ累積投与量がリスクであると思われます。

理想的な対応としては、骨吸収抑制薬を飲む前に抜歯を含めた歯科治療を行い、感染リスクを減らしておくことです。

すでに骨吸収抑制薬を飲んだ後でも、抜歯以外の一般的な歯科治療は通常通り行うことができます。抜歯などの外科処置が必要な際は、累積投与量が少ないうちに完了させておくことが大切です。BP製剤投与期間4年以上やステロイド併用がある場合はARONJ発症リスクが高くなるので、専門施設で抜歯されるといいです。

1)岸本裕充. MROMJに関する論点とは?. 柴原孝彦, 岸本裕充, 矢郷 香, 他. 薬剤・ビスホスホネート関連顎骨壊死MRONJ・BRONJ, 東京:クインテッセンス出版, 2016.

2) 顎骨壊死検討委員会. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016.

3)Bamias A, Kastritis E, Bamia C, et al. Osteonecrosis of the jaw in cancer after treatment with bisphosphonates: incidence and risk factors. J Clin Oncol 2005; 23: 8580-8587.

4)Marx RE, Sawatari Y, Fortin M, et al. Bisphosphonate-induced exposed bone (osteonecrosis / osteopetrosis) of the jaws: risk factors, recognition, prevention, and treatment. J Oral Maxillofac Surg 2005; 63: 1567-1575.

5)Almeida M, Han L, Martin-Millan M, et al. Skeletal involution by age-associated oxidative stress and its acceleration by loss of sex steroids. J Biol Chem 2007; 282: 27285-27297.

6)Almeida M, O’Brien CA. Basic biology of skeletal aging: role of stress response pathways. J Gerontol Biol Sci Med Sci 2013; 68: 1197-1208.

7)Ruggiero SL, Dodson TB, Fantasia J, et al. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons positions paper on medication-related osteonecrosis of the jaw 2014 update. J Oral Maxillofac Surg 2014; 72: 1938-1956.

※参考文献
 「日本口腔インプラント学会誌 2019 年 32 巻 1 号 p. 20-26」
  口腔インプラント医が知っておくべき骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の知識:玉岡 丈二 高岡 一樹 岸本 裕充

Q39 骨髄炎、骨炎、骨壊死の違いは何ですか?
A39

骨髄炎

骨髄炎は、骨髄腔における感染症で、その多くが細菌感染です。感染により髄腔内の内圧が上昇し炎症反応が起こるため、血液供給が圧迫されて骨髄が失活し、骨の一部が壊死します。激しい痛みを伴う急性期の後に排膿が始まり、破骨細胞により壊死骨が分離されて腐骨が形成される。腐骨が除去されれば治癒へ向かうが、除去されなければ腐骨内で感染が持続し難治性となり、慢性化して周囲骨に硬化性変化が生じます。

骨炎

骨炎は、骨表面の炎症であり、ドライソケットで露出した骨などにみられます。小規模の腐骨が形成されることもありますが、感染は髄腔内へ侵入・拡大しません。

骨壊死

骨壊死は、骨が失活した状態であり、その多くは血液供給の途絶や、血管新生阻害薬あるいはBP製剤が原因です。初期の段階では無菌状態ですが、外部への曝露により細菌感染が生じます。骨への放射線照射は動脈内膜炎を誘発し、血管を狭窄させ最終的には壊死させるので、骨壊死に至る場合があります。骨粗鬆症の予防や治療、癌の骨転移、代謝性骨疾患のためにBP製剤を服用している患者において、骨壊死が増加しています。

※参考書籍
 「66症例に学ぶ 歯科臨床の問題解決」
 Edward W. Odell 医歯薬出版株式会社

Q40 BP製剤とはどのような薬剤で、何のために使用されるのでしょうか?
A40

BP製剤には骨のターンオーバーを抑制する作用があります。BP製剤は骨表面に吸着し、長期に結合状態を維持します。骨吸収が生じている部位で、薬剤は破骨細胞により取り込まれ、アデノシン三リン酸(ATP)の代謝や細胞膜機能を阻害します。これにより破骨細胞を死滅させるか、もしくは骨吸収を阻害します。その結果、骨形成が骨吸収を上回り、リモデリングサイクルが延長し、骨密度が上昇もしくは安定します。

BP製剤の主な用途

  • 骨粗鬆症による骨密度低下の予防
  • 悪性腫瘍による高カルシウム血症の治療
  • 悪性腫瘍の骨転移巣を取り囲む骨の吸収を抑制することによる、転位巣の増殖阻害
  • 骨ページェット病における骨のターンオーバーの抑制
  • 骨形成不全症の骨密度上昇

 

※参考書籍
 「66症例に学ぶ 歯科臨床の問題解決」
 Edward W. Odell 医歯薬出版株式会社

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