骨粗鬆症
Q21 | 歯科医院に行ったら、持病の薬について問診票に書くようにしつこく言われました。なぜそんなことが必要なんでしょう? |
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A21 | 歯科治療を受けていただく際、持病のお薬によっては、重大な副作用を患者さんがこうむってしまうことがあるからです。 |
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Q22 | ビスフォスフォネート系薬剤を使っていても全員に顎骨壊死が起こるわけではないそうです。どんなきっかけで起きるのですか? |
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A22 | あごの骨が壊死、つまり死んでしまうのです。発症のきっかけは、抜歯などの外科処置が多いです。むし歯・歯周炎の放置や、お口の不衛生、口内炎、骨隆起、入れ歯の圧迫などがあるとより起こりやすくなります。 ※参考書籍 「nico 2010.10 クインテッセンス出版株式会社」 |
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Q23 | なぜあごの骨にばかり骨壊死が起きるのでしょう?不思議です。 |
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A23 | あごの骨本来の活発な骨代謝の回転を薬で止めるために起こる副作用だからです。薬の使用期間が長くなるほどあごの骨に薬の成分が溜まり発症のリスクも高くなっていきます。 ※参考書籍 「外来・訪問診療のためのデンタル・メディカルの接点」 |
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Q24 | 骨粗しょう症の薬を飲むことになりました。副作用があると聞いて、とても怖いです。トラブルが起こらないようにするにはどうすればよいのでしょう? |
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A24 | 発症を予防するために大切なのは服用をはじめる前に必ず歯科検診を受けて必要な治療をしっかりと終わらせることです。そして定期的にメインテナンスを受け、お口の清潔と健康を守っていけば発症の引き金となる抜歯などを避けられます。 |
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Q25 | 骨粗鬆症のため、ビスホスホネート製剤・骨吸収抑制薬(ARA)を飲んでいます。インプラント治療に関係はありますか? |
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A25 | まず、骨吸収抑制薬投与中の悪性腫瘍患者へのインプラント埋入は避け、骨粗しょう症患者の場合は医科歯科連携で十分協議のうえ、インプラント治療の可否を決定するとされています。 顎骨壊死検討委員会. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016.
そして、悪性腫瘍の患者さんだけでなく、骨粗鬆症の患者さんでもステロイド投与、糖尿病や腎不全などを合併している場合もあり、インプラント治療を避ける選択が適当であると考えられています。 一方、他の全身的リスクがなく、骨吸収抑制薬(ARA)の飲み始め(=累積投与量が少ない)の骨粗鬆症の患者さんにおいてインプラント治療が最適である場合は、過剰にインプラント治療を避ける必要はありません。 顎骨壊死・顎骨骨髄炎(ARONJ)発症のリスクに比較して、骨吸収抑制薬を使用するメリットのほうがはるかに大きい場合が多いため、インプラント埋入後であることを理由に骨吸収抑制薬(ARA)を控えることはやめたほうがいいとされています。
また、ビスホスホネート製剤とインプラント治療の関係について、次のような論文もあります。 5年以下の経口BP内服患者においてBRONJは報告されておらず、経口BPの内服が5年未満の患者において、インプラント治療は安全な術式かもしれない。さらに、経口BPは短期間(1~4年間)のインプラント残存率に影響しなかった。 「全身投与されたビスホスホネートはインプラント治療にどのような影響を与えるか?システマティックレビュー」 他の論文では、「一般に、BRONJのリスクは、1万人中1人~10万人中1人であるが、抜歯後に300人に1人に増える可能性がある。BRONJ症例の大部分は、静脈内注射の患者である可能性が高い。補助因子は確立されていないが、喫煙、ステロイド使用、貧血、低酸素血症、糖尿病、感染症、免疫不全などが重要である。経口ビスホスホネート使用患者のBRONJはステージ2を超えて進展することはまれであり、多くの症例は経口薬の中止により改善する。抜歯は、BRONJのリスクを増価させる唯一の処置である。歯科用インプラントは、経口ビスホスホネート使用患者において注意して使用すべきである。経口ビスホスホネート使用の利点とリスクは、投薬の一時的または永久的停止の必要性を判断する前に、個別に処方医と協議の上、比較検討されなければならない。」という報告があります。 ビスホスホネート関連顎骨壊死の原因としての経口ビスホスホネート:臨床所見、リスク評価、および予防戦略
※参考書籍 「日本口腔インプラント学会誌 2019 年 32 巻 1 号 p. 20-26」 「開業医のための口腔外科 重要12キーワード ベスト240論文」 |
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Q26 | 今ビスホスホネート製剤(BP製剤)や抗RANKL抗体製剤を飲んでいます。抜歯さえしなければ、顎骨壊死(ARONJ)の心配はしなくていいでしょうか? |
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A26 | 顎骨壊死(ARONJ)の発症予防には「抜歯をできるだけ避ける」、やむを得ず抜歯するなら「骨吸収抑制薬(ARA)を抜歯前に休薬する」という対応がなされてきました。 しかし、抜歯を行わなくてもARONJは多く発生しています。抜歯の原因となる歯周病や根尖病変のような局所感染から進展したARONJ症例だけでなく、抜歯を避けることや、休薬している期間に局所感染が持続・悪化し、ARONJに至る症例も多いという報告があります。 また、抜歯前のARA休薬でARONJ発症を予防できるエビデンスはなく、休薬で待機中にも局所感染が持続し増悪することで骨髄炎に進展する可能性があるため、休薬すべきではありません。外科処置が必要な場合は、「飲み始める前に(=累積投与量が少ないうちに)」完了させておくことが重要です。
※参考書籍 |
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Q27 | ARONJって何ですか? |
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A27 | 1.ARONJの定義次の3項目すべての診断基準を満たした場合にARONJと診断すると定義されています1)。 ①現在あるいは過去にBPまたはデノスマブによる治療歴がある ②医療従事者が指摘してから8週間以上持続して、口腔・顎・顔面領域に骨露出を認める、または口腔内、あるいは口腔外の瘻孔から触知できる骨を8週間以上認める ③顎骨への放射線照射歴がなく、顎骨への転移がない
2.ARONJの発症メカニズムARONJの発症メカニズムはいまだに十分に解明されていません。その発症は、①骨壊死が先行する「骨壊死型」と②歯性感染症が進展し顎骨骨髄炎をひき起こす「骨髄炎型」の2パターンにわけられます。 顎骨壊死型は無菌性で、骨の壊死は不可逆性です。骨吸収抑制薬の薬理作用が骨壊死の原因であり、骨吸収抑制薬の真の副作用といえます。そのため、後述する口腔管理で骨壊死型のARONJの発症を予防することはできません。 一方で、骨髄炎型では慢性の歯性感染と骨髄炎との境界はあいまいであり、原因となっている根尖病変や歯周病の治療により治癒することもある可逆的な病変です。骨髄炎が進行すると、壊死(腐骨形成)を生じます。骨髄炎型では骨吸収抑制薬はARONJの症状を悪化させる要因の一つであり、適切な口腔管理によってその発症を予防することができる場合が多いです2)。
3.ARONJのリスク因子ARONJ発症のリスクは少なくとも3つあると考えられています。それは、①骨吸収抑制薬の累積投与量、②顎骨への侵襲、③局所感染、です。 悪性腫瘍の骨転移などの治療を目的に骨吸収抑制薬を使用している患者さんにおいては、注射による高用量の投与が行われ、骨粗しょう症の治療を目的に低用量で治療している患者さんよりもARONJの発症率が高いとされています。また、骨粗しょう症に対してBPを低用量で内服している患者さんでも4年を超えるとBRONJの発症リスクが高まるとの報告があります。このことからも、骨吸収抑制薬の累積投与量はリスク因子の一つであるとされています3)。 骨吸収抑制薬の薬剤添付文書には「報告された症例の多くが抜歯等の顎骨に対する侵襲的な歯科処置や局所感染に関連して発現している」と記載されています。これまでは、ARONJの発症は抜歯などの顎骨への侵襲的処置が原因であるといわれてきました。しかし、抜歯による侵襲だけではなく歯周病や抜歯の原因となった局所感染が顎骨に波及し、骨髄炎型のARONJをひき起こした可能性も高いことがわかってきました。 糖尿病や腎不全患者、ステロイドや免疫抑制薬を使用している患者さんなど、骨代謝異常を有する患者さんはARONJ発症のリスクが高いといわれています。ほかにも先天的な因子、喫煙などのライフスタイルなどがリスク因子として挙げられます1)、4)。
よって、ARONJを予防するためには歯科受診が必要です。
1)米田俊之、萩野 浩、杉本利嗣、ほか. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016. 2)Kishimoto H, Noguchi K, Takaoka K. Novel insight into the management of bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw(BRONJ). Jpn Dent Sci Rev 2019; 55: 95. 3)Ruggiero SL, Dodson TB, Fantasia J, et al. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons position paper on medication-related osteonecrosis of the jaw-2014 update. J Oral Maxillofac Surg 2014; 72: 1938. 4)厚生労働省. 重篤副作用疾患別対応マニュアル 骨吸収抑制薬に関連する顎骨壊死・顎骨骨髄炎. 2018.
※参考書籍 糖尿病・内分泌代謝化 第51巻 特別増刊号. Diabetology, Endocrinology & Metabolology July 2020.第8章 治療薬関連の副作用 薬物療法に関連した顎骨壊死
Shudo A, Kishimoto H, Takaoka K, Noguchi K. Longterm oral bisphosphonates delay healing after tooth extraction : a single institutional prospective study. Osteoporos Int 2018; 29: 2315. |
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Q28 | BRONJって何? |
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A28 | 2014年夏、米国口腔顎顔面外科学会がビスフォスフォネート関連顎骨壊死(bisphosphonate-related osteoneorosis of the jaw)をBRONJと名付けました。
※参考書籍 |
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Q29 | 日本でのBRONJの発現頻度は? |
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A29 | これまでの推定発現頻度は注射薬で1~2%、経口薬で0.01~0.02%とされてきましたが、現在では注射薬と経口薬は同等の発症とされています。 発症の誘因は抜歯が最大の危険因子となっており、抜歯によりBRONJ発現リスクが約7~10倍になり、BRONJを発現させないためには抜歯前後の口腔清掃や抗菌薬の投与が有効と言われていますが、抗菌薬の種類、投与期間、抜歯を含む歯科外科の処置方法などに関しては、本邦での大規模な調査がなく、コンセンサスは得られていないのが現状です。
※参考書籍 「外来・訪問診療のためのデンタル・メディカルの接点」 |
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Q30 | MRONJの臨床症状にはどんなものがありますか? |
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A30 | さまざまな症状がありますが、特にステージ0~2が重要です。 ステージ0骨露出と骨壊死はなく、深い歯周ポケット、歯牙動揺、口腔粘膜潰瘍、腫脹や膿瘍形成、開口障害、下唇の感覚鈍麻や麻痺(いわゆるVincent症状)、ならびに歯原性では説明できない痛みなどが認められることとされています。 ステージ1無症状で感染をともなわない骨露出や骨壊死またはプローブで骨を触知できる瘻孔を認めます。 ステージ2感染をともなう骨露出が認められること、骨壊死やプローブで骨を触知できる瘻孔を認めること、骨露出部に痛みや発赤をともない、排膿はある場合とない場合の両者が混在しています。
※参考書籍
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