糖尿病
Q11 | 糖尿病の患者さんが歯周病の治療を受けると、検査値が改善されるって本当ですか? |
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A11 | 本当です。 現在では、「糖尿病患者さんが歯周病の治療を受けると、ヘモグロビンA1cは0.4%~0.7%改善する」ことが明らかになっています(1)。例えば、ヘモグロビンA1c7.0%の日とは歯周病を治療すると6.3%まで低下する可能性があります。糖尿病の飲み薬でも、ヘモグロビンA1cを0.7%低下させることは、なかなか難しいことですから、歯周病の治療は糖尿病患者さんにとって素晴らしい福音となることでしょう。 18年6月、オランダのアムステルダムで開催された欧州歯周病学会にて、米国と欧州の歯周病学会は共同で19年ぶりに新しい歯周病の分類を発表しました。そして、この新分類の中に糖尿病患者さんの危険因子として、糖尿病が登場したのです。「ヘモグロビンA1c7.0%以上の場合は、歯周病が進行しやすいので、特に注意が必要」と明記されました。歯周病専門医が、本気で糖尿病のことまで注意を払う時代がやってきたのです。 (1)西田亙:糖尿病療養指導士に知ってほしい 歯科のこと、医歯薬出版株式会社、東京、2018 ※参考書籍 |
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Q12 | 抜歯をしたあと、その後の経過を見せに何度か通院しなければならないそうです。糖尿病があるからでしょうか? |
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A12 | 糖尿病の患者さんは傷が治りにくいため患者さんによっては、治療後に何度か診せていただくことがあります。 |
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Q13 | 糖尿病には運動がいいと聞きます。本当ですか? |
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A13 | 本当です。 様々な研究機関から報告がありますので、ご紹介します。
東京ガス研究定期健診受診者の有酸素運動能力(体力)の変化と、糖尿病発症率について7年間観察しました。有酸素運動能力の変化を低下、やや低下、やや増加、増加の四つに分けて、糖尿病発症率を比較すると、1.0、0.64、0.40、0.33となりました。 このことから、運動不足(有酸素運動能力低下)は、日本人の2型糖尿病発症の危険因子と考えられます。
関西ヘルスケア研究通勤時の片道歩行時間が10分以下を基準とし、21分以上の群では発症リスクが27%低下しました。通勤(歩行)時間は、2型糖尿病の発症に関して、他の要因と独立した効果を示しています。
日本糖尿病合併症研究日本人の2型糖尿病患者さんを対象とした調査で、余暇時間の運動量に関して、「高運動量群」では、「低運動量群」に比べて、脳卒中発症と死亡率が明らかに低下していました。糖尿病患者さんでは、余暇時間の運動量が少ないと、脳卒中の起こる危険性が高まります。
このように、運動にはいろいろな効果があります。食後の運動実施は食事による血糖上昇を抑制し、血糖コントロール状態の改善が期待できます。一般的に週に150分以上実施するべきといわれています。なお、ヘモグロビンAlcレベルの低下は、運動量(頻度)の増加とは相関がありますが、運動強度とは相関がないことが判明しています。
※参考書籍 |
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Q14 | 糖尿病になると歯周病になりやすいのですか? |
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A14 | その通りです。糖尿病になると歯周病になりやすいです。 2型糖尿病患者は非糖尿病患者に比較して、歯周病発症率が2.6倍高いことが報告されています1)。 1)Nelson RG, Shloss,am M, Buddinf LM, Pettitt DJ, Saad MF, Genco RJ, Knowler WC, Periodntal disease and NIDDM in Pima Indians. Diabetes Care. 1990; 13: 836-40. ※参考書籍 |
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Q15 | 糖尿病は歯周病を悪化させますか? |
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A15 | 血糖コントロール不良の糖尿病は歯周病を悪化させます。 血糖コントロールの状態と歯周病の関係を調べた研究では、血糖コントロールが極めて不良な2型糖尿病患者(HbA1c ≧ 9%)は、非糖尿病者やHbA1c < 9%の2型糖尿病患者と比較して歯槽骨吸収のリスクがより高いことが示されています1)。ほかにも、血糖コントロールが極めて不良な2型糖尿病患者(HbA1c > 9%)は、非糖尿病者に比べて歯周炎のリスクは2.9倍であるが、HbA1c ≦ 9%では、非糖尿病者と比較して進行した歯周炎が多い傾向はあるものの、そのリスクに統計学的に有意な差はなかったとの報告があります2)。1型糖尿病の血糖コントロールに関しても、血糖コントロールの不良な糖尿病患者では、血糖コントロールのよい患者に比べ、歯槽骨吸収が多いことが報告されています3, 4)。メタアナリシスによる解析では、糖尿病患者では非糖尿病者と比較して歯周組織の状態が悪化していることが示されています5)。特に2型糖尿病は歯周炎の危険因子となる結果が得られています6)。 以上のことから、血糖コントロール不良の糖尿病は歯周病の進行に関与し、歯周病を悪化させると判断されます。 1)Taylor GW, Burt BA, Becker MP, Genco RJ, Shlossman M. Glycemic control and alveolar bone loss progression in type 2 diabetes. Ann Periodontol. 1998; 3: 30-9. 2)Tsai C, Hayes C, Taylor GW. Glycemic control of type 2 diabetes and severe periodontal disease in the US adult population. Community Dent Oral Epidemiol. 2002; 30: 182-92. 3)Tervonen T, Karjalainen K, Knuuttila M, Huumonen S. Alveolar bone loss in type 1 diabetic subjects. J Clin Periodontol. 2000; 27: 567-71. 4)Seppälä B, Seppälä M, Ainamo J. A longitudinal study on insulin-dependent diabetes mellitus and periodontal disease. J Clin Periodontol. 1993; 20: 161-5. 5)Khader YS, Dauod AS, El-Qaderi SS, Alkafajei A, Batayha WQ. Periodontal status of diabetics compared with nondiabetics: a meta-analysis. J Diabetes Complications. 2006; 20: 59-68. 6)Chávarry NG, Vettore MV, Sansone C, Sheiham A. The relationship between diabetes mellitus and destructive periodontal disease: a meta-analysis. Oral Health Prev Dent. 2009; 7: 107-27. ※参考書籍 |
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Q16 | 糖尿病は骨粗しょう症をより悪化させるって本当? |
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A16 | 骨粗しょう症といえば骨がスカスカ(骨密度の低下)と想像される方も多いのではないでしょうか?確かに、骨密度(骨の量)は骨強度を保つために非常に重要です。しかし、中には骨密度がそれほど低下していなくても脆弱性骨折を起こす方がいます。近年ではさまざまな研究が進み、骨強度は骨量だけではなく「骨質」も重要であることが明らかになっています。ヘモグロビンA1cと同じように、骨量だけではなく質が大事なのです。その骨の質(骨質)が悪くなる代表的な病気が糖尿病です。 骨粗しょう症は糖尿病と同様に、骨密度や骨強度が低下しても症状に現れず、身長低下や円背(えんぱい)、骨折によって初めて自覚されます。骨粗しょう症による骨折を脆弱性骨折と呼び、起こりやすい部位は大腿骨近位部(鼠径<そけい>部)、椎体(背骨)、前腕骨遠位端(手首)、上腕骨近位部(肩関節・腕)、肋骨(ろっこつ)などです。特に、大腿骨近位部骨折と椎体骨折が起こると生活に大きな影響を及ぼすだけではなく、寿命が短くなることがよく知られています。海外の人に比べて日本人では椎体骨折のリスクが高く、椎体骨折の約7割は無自覚症の「いつの間にか骨折」といわれています。身長が若い時に比べて2~4cm低下していれば「いつの間にか骨折」がある可能性があるため、一度主治医の先生に相談してみるとよいですね。
※参考書籍 |
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Q17 | 血糖コントロールによって歯周病が改善しますか? |
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A17 | コントロールされていない糖尿病患者では歯周病が重症化し、歯を失うリスクも高いことから、血糖コントロールを行うことは重要です。血糖コントロールが歯周病に与える影響について、血糖コントロールを行わない群をコントロールとしてランダム化比較試験を行うことは倫理的に困難です。また、血糖コントロールを強化療法群と通常療法群に分けて歯周病に与える影響について検討したランダム化比較試験はいまだ報告されていません。前後比較試験においては、糖尿病治療による血糖コントロールの改善に伴い歯肉の炎症の改善がみられましたが、歯周ポケットやアタッチメントレベルの改善は認められていません。 糖尿病治療そのものによる歯周組織の改善については報告が少なく、さらなる研究が必要です。しかし糖尿病治療による歯周組織の改善は限定的であり、原因であるプラーク細菌に対する歯周治療を行わずに、糖尿病の治療のみで歯周病の改善を期待することは推奨されていません。ただし、コントロール不良の糖尿病は歯周病のリスク要因になると考えられるため、歯周治療を成功させるうえでも糖尿病管理を徹底することは必須です。 糖尿病治療が歯周病の病態に与える影響については、ほとんど報告が認められていませんが、糖尿病治療による血糖コントロールの改善によって歯肉の炎症は改善するものの、歯周ポケットやアタッチメントレベルに有意な改善は認められないという報告があります1)。 1)Katagiri S, Nitta H, Nagasawa T, Izumi Y, Kanazawa M, Matsuo A, Chiba H, Fukui M, Nakamura N, Oseko F, Kanamura N, Inagaki K, Noguchi T, Naruse K, Matsubara T, Miyazaki S, Miyauchi T, Ando Y, Hanada N, Inoue S. Effect of glycemic control on periodontitis in type 2 diabetic patients with periodontal disease. J Diabetes Investig. 2013; 4: 320-5. ※参考書籍 |
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Q18 | 血糖値コントロールと新型コロナウイルスとの関係性を教えて下さい。 |
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A18 | 血糖値コントロールが悪いとCOVID-19の重症化・死亡リスクが上がるという報告があります。良い血糖コントロールを心掛けて健康的に過ごすことが、COVID-19に打ち勝つ秘訣なのです。
※参考書籍 |
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Q19 | この新型コロナウイルス感染症の拡大下で、しっかり血糖コントロールをよくするにはどうしたらいいですか? |
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A19 | コロナ禍で血糖コントロールが良くなる人、悪くなる人の行動例について、食事と運動の観点から日々をどのように過ごせばよいのか説明します。 血糖コントロールが良くなる人食事
運動
血糖コントロールが悪くなる人食事
運動
※参考書籍 |
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Q20 | 歯が痛くても血糖値は上がりますか? |
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A20 | ストレスを感じると戦闘モードとなり、心臓が血液をたくさん送り出し、全身にエネルギーを供給するために血糖値が上がります。 歯が痛いときも、身体的ストレスから血糖値は上がります。 歯医者さんで緊張や不安を感じるときも自律神経の交感神経が刺激されて血糖値が上がります。 お口に痛みがあればすぐに歯医者さんで原因を調べてもらい、痛みをとってもらいましょう。 痛みのない身体と心の平穏が血糖値を下げ、糖尿病になりにくい体質をつくり、糖尿病を改善する秘訣となります。 ※参考書籍 |
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