移植

Q1 自家歯牙移植ってどんな治療なの?
A1

自家歯牙移植とは、同一口腔内において歯をある場所から他の場所へ移しかえる処置のことです。通常、保存不可能な奥歯を抜歯した部位へ、機能に参加していない親知らず(不必要な歯)を移植することが多いです。また、歯の先天的欠如がある場合、適切な時期に移植を行うことができれば患者さまにとって大きな喜びになります。移植の利点の1つに歯周病で喪失した歯周組織を回復できることが挙げられます。移植には、本来の移植のほかに、外科的挺出や意図的再植があり、通常の方法では保存することができない歯を治療できる可能性を示すことができます。

※参考書籍 「シリーズ MIに基づく歯科臨床vol4 自家歯牙移植」
      月星光博 著  クインテッセンス出版株式会社

Q2 自家歯牙移植ではどんな診査をするのですか?
A2

エックス線写真、模型、その他の臨床診査から、移植が可能かどうかの診断を下します。診断の大きなポイントは、移植歯と受容側の適合度、移植歯の歯根形態です。これについては、近年臨床応用が広がりつつある歯科用コンビームCTによる術前診断が有用です。術前の診査で移植が可能と診断しても、実際の術当日に不備がみつかれば移植の中断もありえます。診査のなかには、患者さまの治療や口腔衛生に対する理解度や協力度も含まれています。

※参考書籍 「シリーズ MIに基づく歯科臨床vol4 自家歯牙移植」
      月星光博 著  クインテッセンス出版株式会社

Q3 移植の利点・欠点を教えてください。
A3

同一口腔内に保存不可能な歯と不必要な歯(ドナー歯)がある場合、移植する利点・欠点がいくつかありますのでご紹介します。

【移植の利点】

1.移植によって、取り外しできる入れ歯を装着しなくてもよい
2.1本の歯が欠損した部位への移植では、固定性のブリッジを取り
 付ける場合に必要な隣の歯を削る処置をすることがなくなる
3.インプラントより費用が安くすむ

【移植の欠点】

1.一時的に生体に外科的刺激が加わる
2.患者さまの年齢やドナー歯の形態によって、治療後長く使えない
 可能性がある

3.移植した歯の状態によっては、歯根が吸収されたり、移植後の
 歯ぐきに
正常な治癒が起こらなかったりする可能性がある
4.移植した歯は天然歯であるため、天然歯がもっているう蝕・歯根
 破折・歯周炎などの
リスクがある

※参考書籍 「シリーズ MIに基づく歯科臨床vol4 自家歯牙移植」
      月星光博 著  クインテッセンス出版株式会社

Q4 移植の治療の流れを教えてください。
A4

受容側に歯が残っている場合、その歯の抜歯と移植を同時に行う場合とそうでない場合があります。同日に行わない場合は、受容側の抜歯を行ってから1ヶ月半以内に移植をしなければなりません。2ヶ月以上経過すると受容側の治癒が進行し、骨の高さや幅が減少し、移植が困難になることがあります。また、治癒機転から受容側に歯根膜組織が残存していたほうが予後がよい(抜歯同時移植に利点がある)ので、移植治療では受容側の抜歯の時期を慎重に決めなければなりません。その一方で、ドナー歯をかぶっている歯肉で完全に塞ぐことができるほどの十分な量の歯肉が受容側にない場合は、抜歯同時移植は避け、ある程度角化歯肉ができた時点(抜歯後3~5週間)で移植を行うほうがよいでしょう。
歯根が完成した歯の移植の治療の大きな流れをご説明します。

1.移植と固定とパック(外科当日)
2.洗浄(1日目)
3.パックの除去と抜糸(4日目頃)
4.根管処置の開始(約2週間後)
5.治癒の確認(数ヶ月間)
6.必要最小限の歯冠修復(数ヵ月後)
7.メインテナンスと術後観察(できれば一生)

歯根が完成していない歯では、根管処置を行わず、歯の神経の治癒と歯根が発育のするのを待ちましょう

※参考書籍 「シリーズ MIに基づく歯科臨床vol4 自家歯牙移植」
      月星光博 著  クインテッセンス出版株式会社

Q5 交通事故で歯が抜け落ちてしまいましたが、そんな歯でも再植ができると聞きました。脱落後、どのくらいの時間までなら再植できますか?
A5

再植の成功は、主に再植歯に付着している歯根膜の生死に依存しています。よって、再植歯の歯根膜を生きたまま口腔外で保存することが大切になります。歯根膜はpHや浸透圧の変化に弱いものです。乾燥状態で18分間放置されても大半の歯根膜が生存しているのに対し、30分では半分以上、120分では大半が死滅するというデータもあります。一方、生理食塩水中では、歯根膜は120分でも大半が生存可能ですが、水道水中では120分で大半が死滅するということも分かっています。牛乳や近年開発された保存液に浸しておけば、長時間(数時間から24時間)歯根膜を生存させておくことが可能です。とはいっても、生理食塩水中でも時間の経過とともに歯根膜細胞の壊死を誘発しますので、速やかに外科術式を完結させなければなりません。

※参考書籍 「シリーズ MIに基づく歯科臨床vol4 自家歯牙移植」
      月星光博 著  クインテッセンス出版株式会社

Q6 自家歯牙再植の成功を判断する基準は何ですか?
A6
1.エックス線写真による成功の所見(基本的には近遠心面の所見が観察される)

(1)再植歯の全周でほぼ正常な幅の歯根膜腔が観察できる
(2)進行性の歯根吸収が認められない
(3)歯槽骨側に、白線が観察できる

2.臨床的な成功の所見

(1)歯の動揺度が正常である
(2)歯の打診音が正常である
(3)付着の喪失(ポケット形成)がない
(4)歯肉の炎症症状がない
(5)不快な自覚症状がない
(6)歯の機能が正常に発揮されている

※参考書籍 「シリーズ MIに基づく歯科臨床vol4 自家歯牙移植」
      月星光博 著  クインテッセンス出版株式会社

Q7 自家歯牙再植の成功率はどんな所に左右されますか?
A7

より高い再植の成功率が得られるかどうかを判断するための基準は、以下の5項目となります。

1.すべての症例で、成功のためには再植歯の健全な歯根膜が必須となります。
2.患者さまの年齢が低いほど、成功率は高くなります。
3.歯根の形態が単純なほど、予知性は高くなります。
4.抜歯窩への再植は、非抜歯窩への再植より成功率が高くなります。
5.40歳以上の患者さまの非抜歯窩への再植は、再植に適しているかを十分検討します。


※参考書籍 「シリーズ MIに基づく歯科臨床vol4 自家歯牙移植」
      月星光博 著  クインテッセンス出版株式会社

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