顎関節症

Q21 噛むことが脳に影響するって本当?
A21

2012年の9月、アメリカの神経科学専門誌『Neuro Molecular Medicine』に掲載された岡山大学・森田グループの江國先生のラットを用いた研究論文1)があります。咬合の不調和は、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβを脳内に正常値の3倍にまで大量に増加させ、更に咬合を改善することにより脳内のアミロイドβを正常値まで減少させることを動物実験で明らかにした研究です。これは咬合の改善が、40歳ごろからでも発症するアルツハイマー病の有効な予防と治療法になる可能性を示唆しており、咬合治療の意義と歯科の重要性を示す画期的なものだと考えられます。

世界一の長寿国となったわが国は、更に超高齢化が進み、2014年現在既に約4人に1人が65歳以上の高齢者で、激増する認知症への対応が急務の重大な問題になっています。その認知症患者のなんと67.4%がアルツハイマー型認知症であり、その割合は近年急速に増え続けています。

以前から、高齢者の義歯の咬合をきちんと治したり、新義歯を装着すると、「急にすごく頭がはっきりして、認知症が進行しなくなったようだ」とご家族や介護にあたっている方がびっくりして知らせてくれることは、多くの歯科医師がしばしば経験していることです。この江國論文は、歯科だけができる咬合改善治療とホームドクターとしての咬合管理の重要性、そして歯科が果たす役割の大きさを明示しています。

また、近年ファンクショナルMRIによる脳機能の研究が広く行われています。下の図は九州歯科大学の鱒見グループによる画像です。スプリントを用いた咬合治療前後の大脳皮質前頭前野の活動を示しており、咬合の改善が脳機能の活性化に有効なことをこの結果が明示しています。この大脳皮質前頭前野のワーキングメモリーは、記憶、計画、意欲にかかわるので、この研究結果も高齢者に限らずいずれの年齢層においても、咬合治療と日ごろの咬合管理がいかに大切かを示しています。

このように、咬合が脳へ顕著な影響を及ぼしていることが各方面の研究により明確に示されるようになったことで、歯科の役割の重大さと歯科医療人としてのやりがいの大きさを強く感じます。

咬合と脳の関係

スプリントを用いた咬合治療前(左)と比較して、治療後(右)には、大脳皮質前頭前野の著明な活性化が認められます。2)

※参考書籍
 「小出馨の臨床が楽しくなる咬合治療」 小出馨 監修 デンタルダイヤモンド社

1)Ekuni D, Tomofuji T, Irie K, Azuma T, Endo Y, Kasuyama K, Morita M : Occlusal disharmony increases amyloid-β in the rat hippocampus. Neuromolecular Med, 13 : 197-203, 2011.

 2)槙原絵理、鱒見進一、田中達朗、森本泰宏、吉野賢一、有田正博、八木まゆみ:スプリント装着の有無がクレンチング時の脳活動に及ぼす影響. 日顎誌, 20(1):6-10, 2008.

Q22 咬合の不調和が脳、筋、顎関節、顔貌、そして全身へ影響を及ぼすって本当ですか?
A22

本当です。

日本における認知症の患者数は年々増加しています。臼歯部で噛み合わせがなくなると、アルツハイマー病の原因となる異常タンパク質の“アミロイドβ”を脳内に大量増加させることが分かっていて、噛み合わせの治療によりアルツハイマー病の有効な治療となる可能性があります

また、臼歯を抜歯したマウスは抜歯していないマウスに比べて学習・記憶能力が低下することも実験で確認されています。

そして、顎口腔系と全身の筋膜連鎖の関係は、姿勢維持だけでなく、運動機能の向上にまで関係します。スプリントにより咬合の不調和を改善すると、姿勢や顔貌の改善のみならず重心のバランスがとれ、筋力がアップすることが分かっています。咬合の不調和は、顎関節、筋、脳だけでなく全身へも大きな影響を及ぼします

 

※参考書籍
 「日本歯科大学学内校友会 NEWS LETTER No.12 2015年6月30日発行」

 「咬合とアミロイドβの関連性」
 江國大輔、友藤 孝明、東 哲司、遠藤 康正、森田 学(岡山大学)
 米神経科学誌 Neuro Molecular Medicine, 2011, 9.

Q23 異常なストレス(力、咬合力など)が加わった場合に生じる障害にはどんなものがありますか?
A23 それぞれの方の許容量の低い部位に症状が出ます。
1.歯
咬耗、アブフラクション(くさび状欠損)、知覚過敏、圧痛、動揺、歯の移動、破折、修復物が入っていれば脱離や破損など
2.歯周組織
歯根膜腔の拡大、歯槽硬線の消失や肥厚、歯槽骨吸収
3.神経、筋肉
神経痛、痙攣、筋肉痛、頭痛
4.顎関節
顎関節痛、関節雑音、開口障害、下顎頭の変形

※参考書籍
 「Professional Dentistry STEP4」
 監修 木原 敏裕   クインテッセンス出版株式会社
Q24 口を大きく開けると顎の骨がカクってなるのですが、私の場合、左と右でカクってなるタイミングがずれます。口を大きく開けると左が先にカクってなり、遅れて右がカクってなって口が開きます。この症状は何が原因なのでしょうか?また、治療するとしたらどんな治療法になるのでしょうか?
A24

顎は一緒に動くのが理想的なのですが、関節円板異常の場合、両方のバランスがとれないので、一緒に動くことができなくなります。そのため左右で顎がカクっとするタイミングがずれます。

 

※参考書籍
 「美しい表情は噛み合わせから」 
 稲葉歯科医院顧問 元日本歯科大学教授 稲葉 繁
 稲葉歯科医院 院長 稲葉由里子

Q25 歯医者さんで診てもらったところ、噛み合わせには問題ないようなのですが、顎が真っ直ぐあきません。どうしてでしょうか?
A25

左右どちらかの関節の動きがとまってしまっているため(関節円板の位置異常)真っ直ぐ開くことができなくなります。顎関節症の診断をするときの術者のポイントにもなります。

 

※参考書籍
 「美しい表情は噛み合わせから」 
 稲葉歯科医院顧問 元日本歯科大学教授 稲葉 繁
 稲葉歯科医院 院長 稲葉由里子

Q26 10年程前から、口を開けると左の顎がカクカクと鳴ります。それと顔の右半分(眉、目、口元など)が左よりも下がっています。右目も左目より開いていません。これは顎がカクカクしていることに原因があるのでしょうか?この左顎と顔の右半分のゆがみは関係あるのでしょうか?
A26

口を開けたり閉じたりする時は様々な筋肉を使います。左右の筋肉の使い方が違っていれば顔のゆがみ、さらには全身のゆがみがでてきます。左右対称にバランスよく噛めるようにすることで、目も左右対称にしっかり開けることができるようになります。

 

※参考書籍
 「美しい表情は噛み合わせから」 
 稲葉歯科医院顧問 元日本歯科大学教授 稲葉 繁
 稲葉歯科医院 院長 稲葉由里子

Q27 最近友人から顔がゆがんできているよと、よく言われるのですが・・・
A27

顔のゆがみの原因は大きく次のように分けることができます。

1.偏咀嚼癖

程度の差はありますが、ほとんどの人に存在します。

2.不良口腔習癖

舌癖、口唇癖、顔面癖など

3.不良姿態癖

寝ぐせ、頬(顎)づえ、作業姿勢など

4.不正な噛み合わせ

不正な歯列や不適切な冠などによる顎偏位

 

1.と2.は口腔周囲筋の硬化、短縮や習癖のエングラム化(一部分だけで噛み合わせるような早期接触がわずかにでも生じると、それを無理やり避けるように下の顎をずらした位置で噛むように習慣化してしまうこと)が主たる原因なので、マッサージなどの手技療法やストレッチングなどの運動療法により筋肉をリリース(弛緩)させたり、筋エングラムの再構築をしたりすることで改善できます。

3.は主として外からの力によるものです。その原因は生活習慣の中にあるため、問診が非常に大切になってきます。不良な姿勢癖を改善することにより、顔のゆがみだけでなく身体の健康状態もよくなることが多くあります。

4.は噛み合わせに問題があるため、嚙み合わせの治療が必要となりますが、顎位の修復は審美的バランスだけでなく筋バランスのも留意しなければなりません。

※参考書籍
 「筋の生理から運動指導・手技療法まで 歯科臨床が変わる筋機能学こと始め」
 竹内 正敏  砂書房

 「小出馨の臨床が楽しくなる咬合治療」
 小出 馨  デンタルダイヤモンド社

Q28 片噛み癖(偏咀嚼癖)は顔にどんな影響を与えるのですか?
A28

筋肉や関節は過度の使用(オーバーユース)によって組織は硬く縮んで働きが悪くなります。当然口腔周囲の筋肉や顎関節にも同様のことが起こり、その結果、顔貌にも変化を与えます。

偏咀嚼癖による顔貌の変化

偏咀嚼による顔貌の変化

1.オトガイ点(顎の先端)は咀嚼側へ偏位する
2.口唇ラインは咀嚼側に向かって上方傾斜する
3.鼻唇溝は咀嚼側が深くなる
4.咀嚼側の眼は細くなり、目尻も下がる

このような、咀嚼側全体が締まって縮んだようなお顔立ちとなります。

 

顔のゆがみが咀嚼筋・表情筋の硬縮の範囲に留まっているケースでは、手技療法や運動療法により、比較的簡単に回復しますが、咬筋の肥大などを伴っている場合には、咀嚼側の変更も考慮する必要があります。

しかしながら、無理に咀嚼側を変更すると、顎が痛い、口が開かないなどといった顎関節症になる危険性もありますので、歯科医院で相談してください。

※参考書籍
 「筋の生理から運動指導・手技療法まで 歯科臨床が変わる筋機能学こと始め」
 竹内 正敏  砂書房

Q29 アゴのズレは全身に影響しますか?
A29

食べるときアゴが痛い」「口を開けるとアゴが痛い」「口を開けると音が鳴る」「アゴがギシギシする」こんなことはありませんか?
また、特別な原因もないのに頭痛や耳なり、肩こりなどの慢性症状がありませんか?
アゴの関節がズレると、そのズレは全身に影響します。
負担が首から手足へと広がるからです。代表的な症状が3つあります。
・大きく口を開けられない
・口を開けるとアゴが音をたてる
・ものを噛むとアゴが痛い
ちょっとした関節のズレが、私たちを毎日苦しめる原因になります。
かみ合わせがおかしいとアゴの骨やアゴの筋肉に異常な力がかかり、口を開けるとアゴの関節がカクカクと音をたてたりします。歯や口に関係した筋肉や神経などの問題から起こる病気もあります。
食事はよく噛んで食べ、いつも歯や口の状態が健康であるようにを受け、かみ合わせにも注意しましょう。

Q30 噛み合わせがずれて顔や身体が歪むって本当ですか?
A30

本当です。

噛み合わせがずれると、顔や身体の歪みを引き起こします。

主な原因

 1.むし歯の放置

 2.歯が抜けたまま放置

 3.智歯(親知らず歯)の萌出

 4.口呼吸

 5.片噛み

 6.頬杖

 7.うつ伏せ寝

 8.足組み

 9.横坐り

 10.肩掛けカバン

 11.目にかかる片流れの髪型

 12.バトミントン、弓道、野球などのスポーツ

 13.バイオリン、クラリネットなどの楽器演奏

など

 

※参考書籍
 「日本歯科大学学内校友会 NEWS LETTER No.12 2015年6月30日発行」

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