顎関節症
Q1 | 顎関節症の症状と治療法について教えてください。 |
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A1 | 顎関節症の分類顎関節症は、①咀嚼筋の疼痛(開口障害のあるものとないもの)、②関節円板の転位(復位性と非復位性、開口障害の有無)、③顎関節のその他の状態(関節痛、関節炎、関節症)の3つに分類することができます1)。
顎関節症の症状症状は、心理学的、感情的、あるいは精神的起源を持つことが報告されています2)。不安のような感情的状態は、中枢神経系の侵害受容インパルス(nociceptive impulse)を変えることによって疼痛閾値を変化させることがあります。同様に、非機能的習癖の頻度や強度や持続時間の増加もまた咀嚼筋の過活動や顎関節の負担過重と関係しますし、その結果、顎関節症の発症にも関係します3)4)。その一方で、顎関節症の症状、特に疼痛は、抑圧や精神疾患の進展の原因やその増強因子として示唆されてきました5)。
顎関節症の罹患率は5%~12%6)であり、そのうち約16%の患者さんは治療を必要とします7)。その他、全人口の75%ほどが顎関節の機能に関して少なくとも1つの異常な徴候を有しており、33%が顔面痛を有していたという報告もあります8)。
顎関節症の患者さんのなかで最も多いのは咀嚼筋の疼痛を訴える患者さんです。咀嚼筋に生じる疼痛は、筋の固縮による疼痛と、筋の痙攣による疼痛と、筋筋膜痛の3種類があります。筋筋膜痛は、骨格筋の緊張した部分や筋膜中に生じる疼痛です。筋筋膜痛の原因は多要素的であり十分には解明されていませんが、単一の、あるいは繰り返し加えられる身体力学的過重が筋の傷害を生じさせ、それが原因になることがあります9)。また、非機能的習癖、姿勢異常、心理的及び身体的環境なども原因として考えられ、特にブラキシズムは重要な原因であるという論文もあります10)。
咀嚼筋の疼痛は、顔面痛と同義語ではありませんが、顔面痛の大部分は咀嚼筋の疼痛です。顔面痛というのは、一般に、複数の症状、あるいは疼痛部位の特定が難しい疼痛を指し、それらは複数の原因から生じるものです11)。顔面痛の原因には、歯性、筋性、顎関節内の異常、神経障害、偏頭痛、関連痛などが考えられます11)。
顎関節症の治療もっとも一般的に行われている治療法は、口腔内装置(59%)と物理療法(54%)と家族での顎運動(34%)です。その他、ハリ治療(20%)、カイロプラクティック(18%)、トリガーポイントへの注射(14%)、運動あるいはヨガ(7%)、沈思(黙想)あるいは呼吸法(6%)なども行われているという報告があります12)。 調査の対象になった筋筋膜性顎関節症の患者さんたちが疼痛緩和に最も効果的と感じたのは自分自身の活動であり、それは具体的には顎運動、ヨガあるいは運動、黙想、マッサージ、温熱療法などです。これらが多少なりとも効果があったと答えた人は84%で、口腔内装置が多少は役に立ったと答えた人は64%で、11%の人は口腔内装置の装着で疼痛が悪化したと答えています。
1) Dworkin,S.F. : Research diagnostic criteria for temporomandibular disorders : Review, criteria,examinations and specifications, critique. J. Craniomandib. Disord., 6 : 301, 1992 2) Resende,C.M.B.M. et al. : Relationship between anxiety, quality of life, and sociodemographic characteristics and temporomandibular disorder. OS.OM.OP.OR., 129 :125, 2020 3) Bonjardim,L.R. et al. : Anxiety and depression in adolescents and their relationship with signs and symptoms of temporomandibular disorders. mnt. J. Prosthodont., 18 : 347, 2005 4) Monteiro,D.R. et al. : Relationship between anxiety and chronic orofacial pain of temporomandibular disorder in a group of university students. J. Prosthodont. Res., 55 :154, 2011 5) Chisnoiu,A.M. et al. : Factors involved in the etiology of temporomandibular disorders – a literature review. Clujul. Med., 88 : 473, 2015 6) Leeuw,R. and Klasser,G.: Orofacial pain: Guidelines for assessment , diagnosis, and management, 5th edition. Quintessence Publishing, Hanover Park,2013 7) Al – Jundi, M.A. et al.: Meta – analysis of treatment need for temporomandibular disorders in adult nonpatients. J.Orofac.Pain, 22 : 97 107,2008 8) Wright,E.F. and North,S.L. : Management and treatment of temporomandibular disorders : a clinical perspective. J. Manual Manipulat. Therapy, 17 : 247-254, 2009 9) Wheeler, A.H. : Myofascial pain disorders : theory to therapy. Drugs, 64 : 45-62,2004. 10) Yurttutan, M.E. et al. : Which treatment is effective for bruxism : Occlusal splints or botulinum toxin? J. Oral Maxillofac. Surg., 77 : 2431-2438, 2019 11) Baker, J.S. and Nolan, P.J. : Effectiveness of botulinum toxin type A for the treatment of chronic masticatory myofascial pain. A case series. J.A.D.A., 148 : 33-39, 2017. 12) News : Self – care method may provide better pain relief than other therapies for myofascial temporomandibular disorder, study finds. J.A.D.A., 150 : 330, 2019
※参考書籍 |
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Q2 | 私、顎関節症なんですが痛みをとる方法を教えてください。 |
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A2 | 急性の痛みと慢性の痛みで対応方法は異なります。 急性の痛みの場合冷やす・大きく口を開けない・硬いものを食べない・安静に 慢性の痛みの場合温める・開口訓練(リハビリトレーニング)
また、次のような論文があります。 「TMDの疼痛緩和に有効な治療法としては、オクルーザルスプリント、鍼灸、行動療法、顎運動、姿勢訓練、および薬物療法の一部が挙げられた。また、電気生理学的療法や手術の効果に関する科学的根拠は不十分で、咬合調整は効果がないとされた。」 TMDの管理:システマティックレビューおよびメタアナリシスによる科学的根拠 ※参考書籍 「顎関節症のリハビリトレーニング」 |
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Q3 | 顎関節症とは何ですか? |
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A3 |
あごの関節(顎関節)周辺や、あごを動かす筋肉(咀嚼筋)に異常がある状態のことです。 |
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Q4 | 顎関節症の原因と発症のメカニズムについて教えて下さい。 |
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A4 | 現在では研究が進んで、顎関節症の病因は多因子であることがわかっています。例えば、「噛み合わせ」は何十もの病因のほんの一部。クセや生活習慣の改善からまずは試していきましょう。
顎関節症の原因は、大きく分けると次の3つに分けることができます。 1.精神的なストレス、ブラキシズムやその他の口腔習癖による筋の異常活動精神的ストレス・・・緊張、不安、抑うつなど 2.歯冠修復や補綴などの歯科治療による噛み合わせの変化噛み合わせの異常、多数歯欠損 3.不良姿勢や偏った動作による下顎の変位・習癖TCH(上下歯列接触癖)、不良姿勢、噛みしめ、緊張時の食いしばり、頬杖、携帯電話・スマートフォンの操作、受話器の肩ばさみ、下あごを突出させる癖、筆・器具噛み、爪噛み、うつぶせ読書、テレビゲーム・携帯ゲーム ・食事硬い食べ物が好き、ガム噛み、片噛み ・就寝時ブラキシズム(クレンチング、グラインディング)、睡眠不足、高い枕・固い枕、うつぶせ寝、手枕・腕枕、就寝時の姿勢 ・スポーツコンタクトスポーツ(マウスガードの装着義務がない種目で起きやすい)、柔道、剣道、球技、スキューバダイビング、ウィンタースポーツなど ・音楽楽器演奏(クラリネット、サクソフォン(サックス)、オーボエ、トランペットなどの吹奏楽)、カラオケ(急な大開口・維持など)、発声練習 ・社会生活緊張する仕事、多忙な生活、精密作業、PC作業、重量物運搬、歯科治療時(急な大開口・維持など)、対人関係の緊張 他にも、解剖要因(顎関節や靭帯、筋肉が弱い)、外傷要因(噛み違い、打撲、転倒、交通外傷)などによっても発症することがあります。 これらの要因により非生理的な下顎運動が引き起こされ、それが生体の適応の限界を超えた時、顎関節症を引き起こすと考えられています。さまざまな病因が積み上がって患者さんの耐性を超えないように「総量」を減らしましょう!
※参考書籍 「口腔筋機能改善 コンディショニング技法の基礎知識」 「顎関節症 Q&A 自分でできる予防と治療のアドバイス」 |
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Q5 | 顎関節症の痛みの原因にはどのようなものがありますか? |
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A5 |
いろいろ原因はありますが、主に次のようなものがあります。
※参考書籍 |
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Q6 | 顎関節症といっても、いくつかの種類があるそうですね?私はどのタイプかを知りたいです。 |
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A6 |
大きく分けて4つのタイプがあります。日本顎関節学会による分類を使ってそれぞれの特徴をご説明しましょう。患者さんによっては複合型もあるのでまずは歯科医院で診てもらいましょう。 1.筋肉のトラブル咀嚼筋の筋肉疲労による筋肉痛がきっかけ。慢性化する場合もあり、原因についてはまだ謎も多い。口を開け閉めしたり、筋肉を触ると痛む。初期治療と生活指導を受け、リラックスを心がけよう。症状が長引く場合は専門医へ。 2.関節円板のトラブル関節円板のズレにより起きる。異音、口が開けにくいなどの症状のほか、強い痛みを伴うことも。歯科医院の初期治療と生活改善により痛みが軽減することが多いが、痛みが強かったり、症状が長引く場合は専門医へ。 3.靭帯や関節包のトラブル顎関節の周囲にある靭帯などが肉離れや捻挫を起こして痛む。硬い食べ物を避けるなどしながら大事にしていると、通常は自然に回復する。 4.骨の変形のトラブル下顎頭の変形や顎関節の周囲の組織の損傷のために起き、症状は軽度のものから重度のものまで幅がある。顎関節への負担を取り除くことによって顎関節が動くようになると、専門医の治療を受けずに治るケースも。症状が長引く場合は専門医へ。 ※参考書籍 「nico 2015.2 クインテッセンス出版株式会社」 |
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Q7 | 私は顎関節症になったことがあります。治療のときにずっと口を開けているとまたあごが痛くならないかと心配です。 |
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A7 |
1回の治療時間を短くしたり、休憩を挟むなど治療の際に配慮をさせていただきますので、ご心配なことがありましたら顎関節症の既往歴を問診票に書き込んだり、歯科医師や歯科衛生士に必ずお伝えください。 ※参考書籍 「nico 2015.2 クインテッセンス出版株式会社」 |
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Q8 | テレビを見ていたら、顎は左右均等に使わないと顎関節症になったり、顎が変形すると言っていたのですが本当でしょうか? |
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A8 | 以下、日本歯科大学名誉教授の丸茂義二先生のコメントです。 「顎関節症の専門医師としての診療をしていると、マスコミの被害者によく巡り会います。もともと顎関節症という病気は、たくさんある関節の一つのアゴの関節に症状が出る病気ですが、全身の関節は相互に関連があるので腰の調子が悪い時にアゴの関節が不調になったりします。また足を組むことにより骨盤が傾斜し、これがくせになったためにアゴがちゃんと動かせなくなる人も多いのです。 このような方には、いつ頃から調子が悪くなったかをよく問診をしてみます。そうすると雑誌に左右両方で噛まないとアゴが曲がると書いてあったので、一生懸命ガムを噛んで練習したなどという方がいます。いつも使わない所で噛むのには相当に努力が必要です。普通はすぐにやめてしまうのですが、頑張る人がアゴに障害を起こしてしまうこともあるのです。特に骨格の柔らかい子供のうちならいいですが、大人になって骨格が固まってしまうとどうも問題が起こりやすいようです。 物事の考え方は勝手なもので、このような両側を噛むことが正しいかどうかは、右利きで字を書く人は長年右手で字を書いていると体が曲がるとでも言うのでしょうか。手は片手だけ使っても大丈夫で、顎だけは片方だけではいけないとでもいうのでしょうか。アゴは右で噛んでも左側の筋肉も同時に使いますし、世の中の半数の人は噛むことに得意な側があるとも言われています。 このように、頭で考えることとは違って両方を使うことがかえって障害の原因になってしまうこともあるという事実こそ大切なことかもしれません。 多くのまじめな方は、テレビにあるいは雑誌に書いてあることを信じやすく、特に健康関連の記事はそのままの情報を鵜呑みにしてしまうかもしれません。大事にすべき生活習慣と改善すべき習慣を適切に判断することが生活の知恵と言えます。」 ※引用 |
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Q9 | 顎関節症の治療費について教えてください。 |
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A9 |
顎関節症の治療についてですが、残念ながら日本の保険制度ではカバーされていません。保険治療で可能な治療は非常に限られているからです。そのため、顎関節症の診断と治療は保険治療外(自費)で対応させていただいております。 最初の初診時にカウンセリングを実施し、症状の把握、場合によっては応急処置をします。次に、噛み合わせの診査やレントゲン撮影、その他詳しい診断をします。症状によって、顎機能検査、スプリント療法が必要になります。費用については、最初のカウンセリングの時に詳細をお伝えします。 噛み合わせの治療は1回で終了することもあれば、時間をおいて様子をみながら再度噛み合わせの治療をすることもあります。
※参考書籍 |
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Q10 | どんなクセや習慣が悪くて顎関節症になるのですか? |
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A10 |
顎関節症を発症・増悪させる原因を減らすために、日常生活で何気なく行っているクセや習慣を見直しましょう。気づいて改善していくと症状がグッと楽になります。ぜひお試しください! 1.背筋を伸ばそうつい猫背になっていませんか?猫背になると顎が前に出て顎関節に負担がかかりがちです。とくに仕事や勉強で長時間集中するかたは要注意です。ふだんの何気ないクセを直していきましょう。 2.上下の歯を離そう仕事や家事、運転中や勉強中に歯を噛み締めたりして、上下の歯を触らせてはいませんか?上下の歯が触るのは、食事を含めても、通常1日20分程度と言われています。上下の歯を触らせるクセがあると、あごの筋肉を疲労させてしまいます。 3.睡眠を十分取ろう睡眠不足になると緊張状態に陥りやすく、リラックスしにくくなります。また、睡眠の質が悪いと歯ぎしりが増えることがわかっています。生活のリズムを整えて十分な睡眠を取りましょう。うつぶせや高めの枕は避け、できるだけ上向きで寝ましょう。 4.頬杖をやめようテレビを見ながら、おしゃべりしながら、つい頬杖をついていませんか?偏った力があごに加わって余分な負担をかけるだけでなく、バランスを取るためにあごの筋肉が緊張し筋疲労の原因にもなります。 5.仕事の合間に休憩しよう仕事や家事、勉強の合間に休憩を取りましょう。緊張したり集中したりしている時間が長く続くと、あごの周りの筋肉も緊張しがちです。お茶を飲んだり、軽くストレッチをしたりして一息つきましょう。 6.電話の肩ばさみをやめよう電話の肩ばさみは、あごの筋肉を疲れさせ、偏った力をあごにかけてしまいます。また、長電話はあごの疲れの原因に。口を開けると音がするかたや、あごに違和感のあるかたは、ひとまず長電話は控えましょう。 7.うつぶせで読書をしないうつぶせ読書は、下あごが前に突き出てあごに負担がかかります。読書はつい同じ姿勢を長時間続けやすく、何気なく続けているうちにあごを傷めてしまいます。読書はよい姿勢でしましょう。 8.硬い食べ物は控えて痛みのあるかたはもちろん、あごを動かすと音がするかたや違和感のあるかたは、なるべく硬い物・大きな物を食べるのは控えて、しばらくあごを養生させましょう。せんべい、スルメなどはもちろん、フランスパンなども避けたほうがよいでしょう。 ※参考書籍 「nico 2015.2 クインテッセンス出版株式会社」 |
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