歯周病
Q111 | 歯周病はいつ発症するのですか? |
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A111 |
歯周病菌は常に発症のチャンスを狙っています。 18歳以降に歯周病マイクロビオームが完成しても、すぐには歯周病の症状は現われません(不顕性感染)。感染を受けた人(宿主)の年齢が若いせいもあって、長年にわたって歯周組織の健康な状態が続くことが多いと思います。しかし、歯周病菌は絶えず宿主の状態を観察しています(日和見)。口腔清掃不良や加齢などの理由で、歯周組織と歯周病マイクロビオームとの拮抗バランスが崩れ共生関係が破綻したとき、歯周病は発症します(日和見感染)。一方、生涯にわたって発症しない不顕性感染のままの人もいます。 Darveau RP. Periodontitis : a polymicrobial disruption of host homeostatis. Nat Rev Microbiol 2010; 8: 481-490. 歯周病になる人・ならない人※参考書籍 |
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Q112 | 消毒、殺菌、滅菌の定義を教えて下さい。 |
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A112 |
消毒ヒトに害のない程度まで細菌を殺すことです。 殺菌消毒よりも強い作用に用いられます。 滅菌すべての微生物を殺すことです。 おまけ除菌・抗菌という言葉も聞いたことがあると思います。これらは専門用語ではなく、どの程度まで病原菌を駆除できるかという曖昧な言葉です。 除菌と聞くと、菌を除去する、すべて駆逐する、というふうに聞こえますが、実際は消毒と除菌は同じ程度と思っていたほうがいいと思います。除菌よりも効果が高い場合は殺菌になります。除菌・消毒・殺菌、いずれにおいても、菌は生き残り、10分から数時間で2倍に増殖できるのが細菌です。90%の細菌を殺しても、1~10時間後には元に戻ってしまいます。 抗菌は細菌の増殖を阻害するという意味ですので、除菌よりも弱い効果です。抗菌スリッパには菌がいないのではなく、菌が繁殖しにくいというだけです。 ※参考書籍 |
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Q113 | 抗生物質はバイオフィルムに効果がありますか? |
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A113 |
バイオフィルムの中には、抗生物質や殺菌液もほとんど侵入できませんので、あまり効果を示しません。 しかし、アジスロマイシン(商品名:ジスロマック)はバイオフィルムへの浸透性が高い抗生物質で、歯周病菌に対する静菌作用があります(静菌:細菌増殖を抑えること。殺菌ではない)。アジスロマイシンの単独投与の効果は一時的ですが、歯周基本治療と併用するとバイオフィルム中の歯周病菌の量を減らす効果(除菌効果)があり、歯周状態は改善します。 アジスロマイシンには歯周病菌を死滅させる効果(滅菌効果)はありませんので、歯周病菌を駆逐することはできず、完治させることはできません。アジスロマイシンへの過度の依存には注意しましょう。 天野敦雄, 岡賢二, 村上伸也(監修). ビジュアル 歯周病を科学する. 東京:クインテッセンス出版, 2012. ※参考書籍 |
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Q114 | マウスリンスや含嗽剤(うがい薬)は使用したほうがいいですか? |
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A114 |
マウスリンスやうがい薬の効果には限界があります。まず、これらの消毒薬はバイオフィルムの内部深くには浸透できないので、バイオフィルムの一部の細菌にしか効果はありません。しかし、唾液中の浮遊細菌には50~90%の菌を殺す効力があると言われています(殺菌効果はメーカーやブランドによって異なります)。しかし残念なことに、浮遊細菌は30分~3時間で2倍に増殖します。30分で2倍に増殖する菌は90%の殺菌をされたとしても、2時間もしないうちに元の菌量に戻ってしまいます。ですから、マウスリンスやうがい薬には、あくまでも補助的な効力しかありません。 ※参考書籍 |
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Q115 | 抗生物質で歯周病は治せますか? |
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A115 |
抗生物質だけでは歯周病を治すことはできません。抗生物質の投与で休眠細菌以外への効果は期待できます。しかし、投与期間が終わると、休眠細菌が目を醒まし増殖して、いずれバイオフィルムは抗生物質投与前に戻ってしまいます。現代の科学ではバイオフィルム中の歯周病菌を駆逐(滅菌)することはできないのです。 ※参考書籍 |
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Q116 | 生活習慣に関するリスクファクターを教えて下さい。 |
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A116 |
全身の健康習慣
口腔の健康状態
※参考書籍 |
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Q117 | 口の中に住み着くバイオフィルムって何? |
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A117 | バイオフィルムは自分たちを外の侵入(環境)から守るために、ぬるぬるの状態になります。たとえば、台所などの水回りにおいて掃除を怠っているというぬるぬるする箇所ができたりしますが、その場所にはバイオフィルムは形成されているのです。 バイオフィルムはぬるぬるの状態で外部の環境から自分たちの身を守ると同時に、外部からの栄養を吸収して大きくなる一方、老廃物や自分たちに害となる物質を排出するルートを形成します。つまり、細菌の集まりであるバイオフィルムは自分たちで成長しているかのような振る舞いをするのです。放っておけば、外の栄養を吸収し、勢力を広げていくのです。そして、このバイオフィルムが口の中、具体的には歯の表面に形成されれば、デンタルバイオフィルムとなります*)。 デンタルバイオフィルムが口腔内に形成されてしまうと、免疫機能(唾液の中にはそうした成分が含まれています)においても排除できず、また、特定の抗菌薬などの薬剤も効果を発揮しなくなるのです。 *)奥田克爾. 続 史上最大の暗殺軍団デンタルプラーク. 医歯薬出版. 2019.
※参考書籍 「口にかかわるすべての人のための誤嚥性肺炎予防」 米山武義 編著 医歯薬出版株式会社 |
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Q118 | メインテナンスはどのくらいの間隔で行けばよいのですか? |
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A118 |
もっともよくあるメインテナンス間隔は3~6ヶ月に1度です。しかし、この間隔は画一的に決めるべきものではありません。メインテナンスは、患者さんのバイオフィルムの病原性が高くなる前にバイオフィルムと歯石を除去することが目的です。そのタイミングには個人差があります。わずかな蓄積でもバイオフィルムが成熟し高病原性化するのか、そうでないのかを見極めるために、歯周治療が終わってから1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後と徐々に間隔を空けて歯周状態を観察してもらいましょう。
※参考書籍 |
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Q119 | 歯周病の発症に関与する因子って何ですか? |
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A119 |
歯周病の原因は3つ(病因、宿主、環境)あります。しかし、これら3つの原因のすべてが科学的に証明されているわけではありません。そのため、歯周病の発症・進行に関係があると考えられている因子を危険因子(リスクファクター)と呼びます。しかし、危険因子があるから必ず歯周病になるわけではありません。Van Dyke & Sheilesh(2005)は「危険因子に曝露することで歯周炎が起こる可能性が増加する。リスクファクターは原因の1つであるが、それがあったとしても歯周炎が必ず発症するとは限らない」と定義しています。 Amano A. Disruption of epithelial barrier and impairment of cellular function by Porthyromonas gingivalis. Front Biosci 2007; 12: 3965-3974. Van Dyke TE, Sheilesh D. Risk Factors for Periodontitis. J Int Acad Periodontol 2005; 7(1): 3-7.
※参考書籍 |
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