歯周病
Q101 | 40歳以上の日本人の半数以上が歯周炎って本当ですか? |
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A101 |
2001年、ギネスブックに「全世界でもっとも蔓延している病気は歯周病である。地球上を見渡してもこの病気に冒されていない人間は数えるほどしかいない」との記載がなされました。歯周病は人類史上最大の感染症であり、いまだに現代人を悩ますやっかいな病気です。日本においても成人の8割は歯周病と言われ、40歳以上の日本人の半数以上は歯周病に羅患しています。この歯周病との闘いに挑み、患者さんを救うことこそ21世紀の歯科医療関係者の責務であるといえます。
※参考書籍 |
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Q102 | 歯周病の主原因について教えて下さい。 |
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A102 | バイオフィルムと歯周組織の均衡関係が破綻する原因は、バイオフィルムの高病原性化と歯周組織の抵抗性の低下です。 バイオフィルムの高病原性化には、いくつかの理由があります。バイオフィルムに棲むさまざまな細菌たちはお互いに助け合ってバイオフィルムの病原性を高めているのです。(バイオフィルムが低病原性から高病原性へとシフトする変化を“microbial shift”と呼びます)。 一方、歯周組織の抵抗性の低下は、老化、喫煙、生活習慣、不十分なブラッシングなどにより起こります。特に、喫煙は歯周病の最大のリスク因子といわれています。 歯周病発症のきっかけバイオフィルムの病原性が高まり、歯周組織の抵抗性との均衡が崩れたとき、歯周病が発症します。この破綻にはバイオフィルム高病原性化を進める因子と、歯周組織の抵抗性を低下させる因子が影響しています。 ※参考書籍 |
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Q103 | バイオフィルムの病原性を左右するものについて教えて下さい。 |
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A103 |
バイオフィルムの病原性は量より質で決まります。 Genco RJ, Mergenhagen SF(編), 浜田茂幸ほか(訳). 歯周病の科学. 東京:医歯薬出版, 1984. ※参考書籍 |
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Q104 | 歯周病の感染時期について教えて下さい。 |
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A104 | 歯周病菌の原因菌は、レッドコンプレックスです。P.gingivalis, Tannerella forsythia(T.forsythia), Treponema denticola(T.denticola)の3菌種があります。1) 歯周病菌は、思春期前後に感染します。T.forsythiaとT.denticolaは小中高生の頃に感染し、P.gingivalisは18歳以降に感染します。 1)Amano A. Periodontol 2000 52, 7-11, 2010. ※参考書籍 |
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Q105 | 歯周病は一歯単位で起こるんですか?口腔全体で起こるんですか? |
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A105 | 歯周病菌に部位特異性はありません。 高感度になった細菌DNA検査によって、歯周病菌の感染には、部位特異性はないことが示されました1)。歯周病菌は唾液によって、すべての歯の歯周組織に運ばれ定着します。 1)Amano A. Periodontol 2000 54, 9-14, 2010. ※参考書籍 |
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Q106 | 歯周病に対する抵抗力について教えて下さい。 |
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A106 |
同じ歯周病菌がいるからといって、バイオフィルムの病原性は同じとは言えません。歯周病はバイオフィルムの病原性の変化で発症します。また、歯周組織の抵抗力の個人差も関係しています。つまり、バイオフィルムと歯周組織の間の共生関係が崩れると発症すると言われています。 天野敦雄, 岡賢二, 村上伸也(監修). ビジュアル 歯周病を科学する. 東京:クインテッセンス出版, 2012. ※参考書籍 |
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Q107 | 常在菌って何ですか? |
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A107 |
いくらキレイ好きな人でも、人体にはたくさんの細菌が住みついています。これらは常在菌と呼ばれていて、実に多くの種類の細菌が皮膚、口腔、消化管などに定着しています。身体に生息する常在菌集団の菌種は、場所によって大きく異なっています。また、個人間でも大きな差がみられ、各個人が固有の特徴をもっています。細菌といえば悪いというイメージが強いのですが、悪玉菌はほんの一握りにすぎません。常在菌は、ヒトにとってプラスでもマイナスでもない、あるいはプラスに働くものがほとんどです。 Pennisi E. Body’s Hardworking Microbes Get Some Overdue Respect. Science 2010 ; 330 : 1619. 人体の常在菌の数※参考書籍 |
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Q108 | マイクロビオームって何ですか? |
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A108 |
21世紀になって、常在微生物は予想以上にわれわれの健康を大きく左右していることがわかってきました。たとえば、腸内細菌叢は代謝性疾患、炎症性疾患、がんなど実にさまざまな病気の発症や進行に関係しています。ヒトの健康と全身の常在微生物との関係を研究するため、人体の常在微生物叢を、マイクロビオームと呼ぶことになりました。 このようにマイクロビオームはヒトと共生し相互利益を得ていますが、共生関係が破綻すると常在菌による感染症が発症します。 Pennisi E. Body’s Hardworking Microbes Get Some Overdue Respect. Science 2010 ; 330 : 1619. ※参考書籍 |
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Q109 | 歯周病は完治するのですか? |
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A109 |
歯周病は完治しません。 歯周治療によって歯周病菌の量が減ってくると、出血が止まったり、歯周ポケットが浅くなる、など歯周組織の状態は改善してきます。しかし、これは歯周病菌と歯周組織の共生関係が取り戻されただけであって、歯周病菌が口腔から完全に駆逐されたわけではありません。常在菌である歯周病菌は駆逐できません。生き残った歯周病菌は、バイオフィルムや歯周組織に潜伏し歯周病の再発を狙います。歯周病の原因を駆逐できないということは、歯周病には再発の危険がつきまとい、完治はないということです。 ※参考書籍 |
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Q110 | 歯周病は唾液で感染するの? |
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A110 |
虫歯菌は母親の唾液を介して子供に感染します。歯周病菌も唾液感染によってうつります。しかし、歯周病菌の感染経路は、はっきりとはわかっていません。歯周病菌が家族から感染したと推測されるケース(食べ物についた唾液を介した日常的な間接感染)は50%にも満たないと言われています。他に考えられる感染経路は、キスなどによる直接感染か、他人との食物を介した偶発的唾液感染が挙げられます。 歯周病感染予防の観点からは、自分の唾液の付いた箸(直箸)で皿に盛りつけられた料理を分け合う行為は好ましくありません。日本では直箸はマナー違反とされていますが、中国や韓国では取り箸の習慣がなく、むしろ友好の証とされ、格式の高い席でも直箸で取り分けられます。歯周病菌の感染経路がもっとはっきりすれば、効果的な予防法が考えられるようになると思います。 ※参考書籍 |
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