歯周病

Q1 歯周病は歯を失う怖い病気と聞きました。どんな病気なのですか?
A1

歯周病は、口のなかに棲む歯周病菌が引き起こす感染症です。歯周病菌や歯周病菌の出す毒素が引き起こす炎症によって歯ぐきが腫れる歯肉炎になります。そしてこの状態のまま放置すると、歯を支えるセメント質、歯槽骨や歯根膜が破壊される歯周炎へと悪化し、ついには支えを失った歯が抜けてしまうという恐い病気です。

歯周病菌はお口のなかの常在菌で、先住者として外から入ってくる他所者(よそもの)の菌を寄せ付けないような役割も果たしつつ、ふだんは人間と共生しています。

ところが、みがき残しなどのために細菌のかたまりであるプラークがお口に溜まって成熟すると、歯周病菌はパワーアップし、共生のバランスが崩れて炎症を引き起こしてしまうのです。

歯周炎になると歯ぐきの溝がさらに深くなり、ますますプラークが溜まりやすくなります。すると炎症はさらに悪化し、歯ぐきから血や膿が出たり、歯がぐらついて噛みにくく、口臭もひどくなっていきます。

発症すると自然に治ることはなく、歯槽骨は一度溶けてしまうと、決してもとどおりにはなりません。歯槽骨が大きく失われると、治療が手遅れになり、抜歯になってしまうことも少なくないのです。

セルフケアと歯科のサポートで歯は残せます。

「歯を失う怖い病気」というイメージが強い歯周病。ですが、テレビCMなどで見られるように、短期間で歯がグラグラになって抜け落ちてしまうことはふつうはありません。統計的には、歯周病になりにくい人が1割、進行しやすい人が1割で、残りの8割の人はゆっくり進行していきます。

歯周ポケットができるとそのなかの掃除はとても難しく、しかも歯石はいったん溜まると硬くこびりつき、歯みがきでは取れません。プロのワザでプラークと歯石を取り除き、歯周ポケットの中の歯周病菌を減らすことこそ、歯周病の進行を食い止めるための方法です。

つまり、歯周病を予防するには、セルフケアだけでなく、歯周病の早期発見が重要です。早く異常がわかれば、その分早く手が打てます。そのためには、定期的に歯科医院で健診を受けることが大切です。もし歯周病になっていて治療を受けたのなら、治療が終わったときが歯を守る新たなスタート地点です。再発を予防するために健診に通いましょう!

 

タバコで歯周病が10年速く進行する!

タバコは歯周病の進行を速めます。約4,800人の初診患者さんの喫煙状況と歯周病の進行度を比較したところ、中等度・重度歯周病のかたの割合が、30代の喫煙患者さんと、40代の非喫煙患者さんでは同じくらいとなりました。40代の喫煙患者さんと50代の非喫煙患者さん、50代の喫煙患者さんと60代の非喫煙患者さんも同じような割合でした。

喫煙の有無による中等度・重度歯周病患者さんの割合(4,783人中)
非喫煙者 喫煙者
40代 19.6% 30代 18.8%
50代 37.1% 40代 29.4%
60代 50.7% 50代 58.7%

出典:日本ヘルスケア歯科学会実態調査1 (2014年初診患者)

 

つまり、「タバコを吸っている人は、吸わない人より10年歯周病の進行が速くなる」と言えます。歯周病を予防するために、タバコはきっぱりやめましょう(加熱式タバコも同じです)。

 

※参考書籍
 「nico 2011.9 クインテッセンス出版株式会社」
 「nico 2010.1 クインテッセンス出版株式会社」
 「nico 2009.2 クインテッセンス出版株式会社」
 「nico 2020.5 クインテッセンス出版株式会社」

Q2 歯の正しい磨き方って、どんな磨き方ですか?
A2

そもそも、歯垢を完全に除去することは物理的に不可能なことであり、また歯周病治療にはそこまで行う必要もないことなのです1)。なぜなら歯磨きの効果が上がっているかどうかは、歯周組織の健康状態とリンクさせて判断すべきものだからです1、 2)。その磨き方によって歯周組織の健康が維持されたり健康を回復したりしなければ、その刷掃は不適切だと考えるべきです1、 2)

歯周炎の原因がプラーク(dental plaque)であることは、現在では定説になっていますが、プラークが存在するからといって、すべての人々のすべての歯周組織に歯周炎が生じるわけではないのです。これまでに発表された多くの論文は、プラークに対する感受性は各個人ごと各部位ごとに大きく異なることも示しています1)

「正しい歯の磨き方」 で一番重要なことは磨き残しがないことではなく、歯周組織が健康になるかどうかや、健康が維持できるかどうかであり、「磨き残し」があるかどうかではありません。プラークコントロールの効果を評価するための唯一の意味ある基準は、歯周組織の健康状態なのです1、 2)

 

歯周病を防ぐ歯磨き5か条

  1. 歯ブラシのヘッドは小さめに、ペンを持つように握る
  2. 歯は二本ずつ、毛先を動かさず細かく左右に振動させて磨く
  3. 歯磨き粉はフッ化物が配合され、研磨剤が入っていないもの
  4. 糸ようじ、歯間ブラシ、舌ブラシは効果大。つまようじはNG
  5. デンタルリンスを歯磨きの前後に30秒使い、水でゆすがない

 

1)飯塚哲夫:歯周病はなぜ治らないのかどうすれば治るのか 愛育出版、東京、2017

2)飯塚哲夫:歯周療法の基礎 第5版 株式会社ストマ、埼玉、2018 p133 -162

 

※参考書籍
 「近代口腔科学研究会雑誌Vol.47 No.1 P7~P13『週刊文春の記事【心筋梗塞、脳梗塞、肺炎、認知症も『歯磨き』で万病を防ぐ】を読んで』」
 近代口腔科学研究会

Q3 歯みがきをしっかりやっていれば歯周病は大丈夫ですよね?
A3

歯ブラシだけでは落としきれない汚れがあります。

歯ぐきの溝のなかはプラーク(細菌のかたまり)がたまりやすい場所で、たまったプラークは歯周病の原因になります。そのため、この部分を歯ブラシで注意してみがいているかたも多いでしょう。

ですが、歯ブラシでは溝のなかのプラークは完全には取り切れません。しかも、無理に溝のなかにブラシの毛先を入れてみがくことを続けると、歯ぐきが傷つきやせ、むし歯になりやすい歯の根面が露出してしまいます。

歯ぐきを傷つけずにきれいにプラークを取り除くみがきかたを、歯科医院で教えてもらいましょう。歯ぐきの深い溝や歯周ポケットのなかの掃除も歯科医院におまかせください。

歯と歯のあいだをデンタルフロスや歯間ブラシでみがくことと、むし歯予防のためにフッ素入り歯みがき剤を使うこともお忘れなく。

 

※参考書籍 「nico 2020.5 クインテッセンス出版株式会社」

Q4 歯周基本治療の内容について教えてください。
A4

以下のものがあります。

1.応急処置

2.モチベーション

3.プラークコントロール

4.スケーリング・ルートプレーニング

5.歯周ポケット掻爬

6.不適合充填物・補綴装置の修正・除去

7.歯周治療用被覆冠・治療用義歯の装着(当面の咬合確保)

8.咬合調整

9.暫間固定

10.う蝕治療・歯内治療

11.悪臭癖の改善

12.矯正治療

13.保存不可能な歯の抜歯

※参考書籍 「日本歯科医師会雑誌 2017 Vol17 No.5」

Q5 保険の歯周治療の流れを教えてください。
A5

下記のフロー図を参考にしてください。

慢性歯周炎患者に対する歯周治療の流れ

参考:日本歯科医学会. 歯周病の治療に関する基本的な考え方(令和2年3月).
日本歯科医学会ホームページより

歯周治療の流れ

注1:歯周基本治療の内容の例
  1. 口腔衛生指導(OHI)(プラークコントロール)
  2. 非外科的歯肉縁上・縁下デブライドメント(スケーリング)
  3. テンポラリークラウン、プロビジョナルレストレーション(ブリッジや可撤式補綴装置も含む)の製作
  4. 部分的なう蝕除去と一時的な仮封
  5. 不適合/不適切補綴装置の張り出しやマージン部の削合
  6. 早期接触部や咬合干渉部の必要性に応じた咬合調整(急ぎでなければ歯周組織の炎症消退後が望ましい)
  7. 歯の動揺が著しいとき(脱臼寸前もしくは患者が噛みにくい場合)の歯の固定(暫間固定)
  8. 根管治療
  9. ホープレス歯や抜いたほうがよいと判断された智歯などの抜歯
  10. 急性炎症に対する対応(切開排膿処置、抗菌薬の処方など)
  11. 口腔粘膜疾患、顎関節症などへの対応

 

注2:歯周病重症化予防治療(P重防)

スケーリングやSRP後、あるいは歯周外科治療後の歯周病検査の結果、歯周ポケットは4mm以下に改善したが、歯肉に炎症または出血が認められる場合に、歯肉炎から歯周病への移行や歯周炎の重症化を抑制するために行う継続管理。歯肉炎(G病名)でも保険適応可能。

 

注3:歯周病安定期治療(SPT)

サポーティブペリオドンタルセラピー。SRP後あるいは歯周外科治療後の歯周病検査において4mm以上の歯周ポケットが散在するが、歯肉に炎症が認められない場合、あるいは出血が認められない場合に病状安定と判定し、この状態を維持するために行う継続管理。

 

※参考書籍
 「保険のペリオを極める」
 編著 大月基弘、牛窪建介 クインテッセンス出版株式会社

Q6 歯槽膿漏と歯周病はどう違うのですか?
A6

同じものです。歯周病は、以前は「歯槽膿漏」とよばれていました

歯槽膿漏とは歯ぐき(歯肉)から膿(うみ)のでる病気という意味ですが、その他にもさまざまな症状があることから、いまでは「歯周病」と呼ぶようになりました。

※参考サイト 「日本臨床歯周病学会」

Q7 歯周病かどうかを自分でチェックする方法はありますか?
A7

歯周病進行度セルフチェック

 

□歯肉がむずむずしてかゆい

□歯が浮いた感じがして腫れぼったい

□冷たいものがしみる

□歯を磨くと歯肉から出血する

□下の前歯の裏側に歯石が付いている(ザラザラした感じがする)

□朝起きたとき口の中がネバネバする

□歯肉を押すと血や膿が出る

□口臭を指摘された・自分で臭いと感じる

□「サ行」の音が発音しにくい

□歯と歯の間に食べ物がはさまりやすい

□歯を押すとグラグラする★

□歯肉が下がり、歯が長くなった感じがする★

□以前とは歯並びが変わったような気がする★

 

0~2個 → 健康な歯、歯肉です
3~4個 → 歯周病の可能性があります
5個以上 → 歯周病である可能性がきわめて高いです

 

さらに・・・

★が付いている項目全てが該当 → 重症の歯周病である可能性が非常に高いので、すぐに治療を始めましょう。

 

 

※参考書籍
 「日本人はこうして歯を失っていく」
 日本歯周病学会 日本臨床歯周病学会
 朝日新聞出版

Q8 歯肉から膿が出ていないので、歯周病ではないですよね?
A8

歯周病はかつて歯槽膿漏と呼ばれていたせいか、漢字どおり「歯肉がぷよぷよして『膿』が出る」といった状態をイメージしている人が多いようです。膿が出るのは確かに歯周病の症状の一つです。ただ、このような症状に気づく頃には、歯周病はかなり進行してしまっています。

初期には、歯肉の腫れやむずがゆさ、歯を磨いたときの出血といった症状が現れますが、いずれも自分では気づきにくいもの。しかし、この段階で治療を始めれば歯を失うことはなく、早く良くなります。

歯周病初期はなかなか自分では気が付くことができない、自覚症状が出るころには歯周病はかなり進行しているということを知っておきましょう。

 

 

※参考書籍
 「日本人はこうして歯を失っていく」
 日本歯周病学会 日本臨床歯周病学会
 朝日新聞出版

Q9 歯周病予防は中高年になってやればいいですよね?
A9

歯周病は「高齢者の病気」と捉えられることが多いようです。

しかし、若者が歯周病にならないわけではありません。厚生労働省が2011年におこなった「歯科疾患実態調査」によると、すでに15~19歳で4.5%、20代は約14%、30代になると5人に1人が歯周病になっています。また、歯周病の中でもとくに重篤化しやすいタイプの「侵襲性歯周炎」は「若年性歯周炎」ともいわれ、10代20代で発症します。

将来、歯がボロボロになって後悔しないように、若いうちからむし歯予防だけでなく歯周病予防も始めましょう。

 

※参考書籍
 「日本人はこうして歯を失っていく」
 日本歯周病学会 日本臨床歯周病学会
 朝日新聞出版

Q10 私はむし歯がないので、歯周病にならないですよね?
A10

むし歯がなくても歯周病を発症するリスクはあります。

むし歯も歯周病も、もともとの原因は細菌感染ですが、細菌の種類は異なるため、むし歯になりにくいからといって歯周病にもなりにくいなどということはありません。

 

※参考書籍
 「日本人はこうして歯を失っていく」
 日本歯周病学会 日本臨床歯周病学会
 朝日新聞出版

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