酸蝕歯

Q1 酸蝕歯って何ですか?
A1

「むし歯菌が出す酸によって歯が溶ける」のがむし歯です。酸蝕とは、それとは違って、酸性の食べ物や飲み物に歯が触れることで起こります。

実は、どんな人でも日常的に酸の影響を受けているのですが、唾液の力によってエナメル質が補修され、そのバランスが保たれているおかげで歯の健康が維持されています。でも、そのバランスが崩れて、酸の影響を過剰に受けるようになったときに、酸蝕という問題が生まれてきます。その度合いが大きいものを、将来問題になりそうだというものも含めて「酸蝕歯」と呼んでいます。

口のなかのpHは、ふつう唾液の力によって中性(約pH7)に保たれています。しかし、酸性の食べ物・飲み物を口に入れると、当然ながら口のなかは酸性にかたむき、エナメル質が溶けはじめます。これを「脱灰」といいます。しかし一方では、唾液が酸を中和して、唾液に含まれるカルシウムなどにより歯を修復してくれます。これを「再石灰化」といいます。通常はこの「脱灰+再石灰化」のバランスが保たれて、歯の健康が維持されます。でも、酸性の飲食物に長く、あるいはしばしば触れたり、唾液の減少などが原因で再石灰化が進まないと、バランスが崩れ、脱灰が進行してしまいます。

むし歯・歯周病との違い

酸蝕症は、化学的溶解を原因とし、口腔内細菌の関与がありません。歯みがきだけでは予防できない歯の疾患です。重要なことは口のなかの酸のコントロールとクリアランスの促進です。

発症部位(酸蝕の拡散程度)が変化する

酸蝕症は、三大好発部位(小窩裂溝、歯頚部、隣接面)を有するむし歯とは異なり、その要因や程度(重症度)により発症部位が変化するため、個々の症例ごとに口腔内全体を細かく観察する必要があります。

酸蝕+αがダメージを加速する

臨床の現場において、酸蝕のみが関与すると断言できる症例は少なく、多くの酸蝕症例は、単なる化学的溶解に咬耗・摩耗が加わることによって、その進行が加速する傾向があります。

酸蝕症の調査・頻度

国内調査では、約4人に1人が酸蝕症に罹患していることが明らかになっています。日常の臨床のなかで、エナメル質段階の酸蝕症を見逃さず、診断・臨床対応することが必要です。

※参考書籍
 「知る・見る・対応する 酸蝕症」
 北迫 勇一、岩切 勝彦  クインテッセンス出版株式会社

 「nico 2009.1クインテッセンス出版株式会社」

Q2 生活の中でどんなことに注意すればよいですか?
A2

酸蝕歯になりやすいかどうかは食習慣、そして生活習慣によります。よくあるリスク習慣をあげてみましょう。

1.毎日のジョギング後の水分補給にビタミンドリンクや黒酢ドリンクを愛飲している。

健康意識の高いかたで、スポーツの後の水分補給に黒酢ドリンクやビタミンドリンクなどを愛飲なさっているかたがいます。からだにはよくても、じつは歯が溶けやすいため注意が必要です。走った後は、口のなかがカラカラ。しかも汗をかいて体内の水分が減ると、唾液の分泌量はぐっと減っています。こうして唾液の力が弱まっているときに習慣的に酸性の飲み物を飲むと、酸蝕歯になりやすくなります

2.部活中、熱中症の予防のため頻回に、少量ずつスポーツ飲料を飲んでいる。

ことに暑い季節のスポーツでは、熱中症や脱水症状などにならないよう、水分をこまめに摂ることがとても重要です。でも、この飲み物がもしも酸性の強いスポーツ飲料なら、歯の健康が心配です。こまめに飲むと、歯と酸との接触時間が増え、しかも部活となると、毎日、数時間にわたり飲むことになります。ことに中高生の場合、奥歯の永久歯はまだ生えたてで軟らかく、成人の歯に比べてとくに溶けやすいのです。

3.朝食は必ず健康のためにグレープフルーツを食べその直後に歯みがきしている。

毎日の食事や生活スタイルを習慣化して、同じサイクルを繰り返すことで体調管理に役立てて、健康に気を配るかたは多いことでしょう。しかし、酸蝕症のリスクがそのサイクルの中に組み込まれていると、良かれと思ってしていることが、酸蝕歯の原因になってしまうことがあります。柑橘系のくだものはとくに酸性度が高く、エナメル質を軟化させます。そこへゴシゴシと歯みがきをすると、エナメル質が過剰に削られてしまうのです。

4.仕事で運転中は、やっぱり大好きなコーラ。信号で止まるごとに飲む。

市販の清涼飲料水のなかでも、とくに酸性の強い飲料にコーラがあります。以前はビンに入っていて一気に飲むイメージでしたが、最近はペットボトル入りになって、少しずつ飲むのに便利になりました。でも、「少しずつ」飲むと、酸と歯が接触する時間が結果的に長くなり、酸蝕歯のリスクが高まってしまいます。ことに、仕事で日常的に運転をしているかたは、停車するごとに少しずつ飲むことが多いでしょう。注意が必要です。

5.赤ちゃんがぐずるとき哺乳瓶でジュースを飲ませると満足してよく寝てくれる。

赤ちゃんの生えたての乳歯は軟らかく酸性の飲み物に対してとくにデリケートです。甘い飲み物が好きな赤ちゃんに、ほしがるたびに哺乳瓶やマグでくだもののジュースを飲ませていると酸蝕症のリスクがたいへん高くなります。ことに眠れずにぐずるときに飲ませ、赤ちゃんがそのまま寝てしまうことになると、寝ているあいだは唾液量が減るので、口のなかに酸が長く留まってしまうのです。

6.お酒はチューハイかワイン。ちびちび飲むのが好きでつまみはいらない

柑橘系の果汁の入ったチューハイやワインは、口当たりがよく飲みやすいお酒です。でもこれを毎日晩酌にチビチビと飲み続けると、酸蝕歯のリスクが高まります。お酒は少しずつ飲むほうが、からだへの負担が少ないですが、酸に触れる時間が長くなるため、歯への負担は増えます。つまみを食べれば、まだしもその刺激で唾液の分泌が促進される可能性もありますが、つまみなしでは、唾液の力にすがるほんのわずかな望みも絶たれます。


※参考書籍 「nico 2009.1クインテッセンス出版株式会社」

Q3 どうすれば酸蝕予防できますか?自分でもできますか?
A3

もちろんです。酸蝕のリスクを減らすための効果的な予防策をお教えしましょう。「これで万全」とは言い切れませんが大きなリスクを回避することができます。

1.酸性の飲食物を口にしたらそのあとすぐ水やお茶を飲む

酸が口のなかに長く残らないよう、ことに酸性度の高いものを口にしたあとは、水やお茶で口をすすぐつもりで飲むとよいでしょう。健康のために酢やビタミンCドリンクなどを毎日飲む習慣を続けたいかたは、この方法をぜひ取り入れてください。チビチビ飲むより、グッと飲み切るほうがリスクを軽減できます。また、カプセル入りのサプリメントなら、酸蝕の心配がありません

2.酸っぱいものを食べたら30分ほど歯みがきを控える

食後すぐの歯磨きは、本来はむし歯を予防するためのとてもよい習慣です。ただし、酸に触れて軟らかくなっている歯をゴシゴシとみがくと、エナメル質の表面が削れてしまいます。そこで、酸っぱいものを食べた後は、まずお茶を飲み、唾液の力で軟化がおさまる30分ほど後に歯をみがくとよいでしょう。とくに、毎日の朝食にグレープフルーツなどの柑橘系のくだものを摂るかたは注意が必要です。

3.軟らかい歯ブラシを使う

軟らかい歯ブラシを使い、ゴシゴシみがきをしないようにしましょう。おすすめは、日本の歯科専売メーカーのソフトタイプ。技術・工夫とも世界でピカイチです。1本1本の毛が軟らかく、植毛がみっちりされているので、ソフトですがプラークがしっかりと落ちます。ネックに弾力があるタイプはさらにGOOD。弾力が力を和らげ歯を傷めにくい構造だからです。

4.口が渇いているときは酸性の飲み物を避ける

スポーツ直後の口が渇いているときには、唾液が減り、再石灰化の作用が充分に働きません。強い酸性の飲み物は避けてください。また、日常的にドライマウスの傾向のあるかたは、強い酸性のものを口にする際には注意が必要です。強い酸性の飲食物は、できれば避けていただきたいものです。健康飲料としての酢やビタミンCの摂取には、カプセル入りのサプリメントをおすすめします。

5.フッ素入り歯みがき剤やジェルを使う

フッ素入りの歯みがき剤を使って、エナメル質をケアし歯質を強くしましょう。近ごろでは、たいていの歯みがき剤にフッ素が入っています。念のためお使いの歯みがき剤の表示を確かめてみてください。また、酸蝕歯予防専用の歯みがき剤も販売されています。歯みがきのあとには、研磨剤の入っていないフッ素入りのジェルを歯に塗るとより効果的です。

6.赤ちゃんに哺乳瓶でジュースを飲む習慣をつけない

赤ちゃんはジュースやイオン飲料が大好き。でも哺乳瓶でこうした飲み物を飲む習慣がつくと、生えたての乳歯はたいへんなダメージを受けます。ちょうど飲み物に触れやすい前歯の裏側が溶けてしまうのです。乳歯は、永久歯が生えてくる際に先導役を果たす大切な歯。守ってあげたいですね。なお、熱を出したときなど、こまめなイオン飲料の摂取が必要な場合には、その後、それが習慣化しないよう気をつけましょう。

※参考書籍 「nico 2009.1クインテッセンス出版株式会社」

Q4 歯医者さんで歯が酸で溶けていると言われました。これって何ですか?どう予防したらいいですか?
A4

それは酸蝕歯と呼ばれます。残念ながら、体によい食習慣(例えば、レモン・酢・スポーツドリンクなどを飲む習慣)がすべて歯にもよいとは限りません。酸蝕歯はむし歯や歯周病と異なり、ブラッシング(歯磨き)だけでは防ぐことはできません。実は日常生活には酸蝕歯のリスクがたくさんひそんでいます。そこで、歯も体も健康になる対策をご紹介します。

対策1 長時間、歯を酸にさらさない

酸で歯が溶けている様子

対策2 直接、酸を歯に触れないようにする

酸に触れないようにする

対策3 酸に触れた歯が軟らかいあいだは、余計な力を加えない

雨に濡れた土のように、歯も酸で軟らかくなる

 

「やめたくてもやめられない・・・」という方へ

酸性飲食物は嗜好品のため、すぐにやめられない、あるいは健康のためにやめたくない方もいます。一番大事なのは、酸性飲食物の摂取頻度の軽減です。

「熱中症対策にスポーツドリンクは欠かせない!」

酸性飲食物を摂ったあと、水やお茶など中性の飲料も飲むようにしましょう。

 

「栄養ドリンクを飲まなきゃ仕事にならない!」

ちびちび飲まずに、グッと飲み干すようにしましょう。

 

「炭酸飲料大好き!」

食品の形態をカプセルなどに変えてみましょう。

 

「健康のために、黒酢も柑橘類もやめたくない!」

ストローを使って飲みましょう。

 

「お酒を控えるなんてムリムリ!」

よく噛んで唾液が出る軟らかめのおつまみと一緒に楽しんで。

 

「硬めの歯ブラシでゴシゴシ磨くと爽快!」

酸性の食品を摂った後は、少し時間をおいて歯磨きしましょう。

北迫勇一. 食後のブラッシングと酸蝕症. 歯界展望 2014. ; 124 : 736-741.

 

※参考書籍
 「歯科医院で患者さんにしっかり説明できる本」
 クインテッセンス出版株式会社

Q5 酸蝕歯はどんなとき起こるの?
A5

酸蝕とは、酸の影響により歯牙が溶けていくことです。どのようなときに酸蝕歯のリスクがあるのかを整理しておきます。

1.飲食としての酸

酸性飲食物の過剰摂取や薬物・薬剤(ビタミン剤)によって引き起こされる可能性があります。クエン酸は非常に酸蝕症を起こしやすい酸なので、毎日柑橘系果物を食べる習慣のある人は要注意です。 炭酸飲料の常飲や炭酸飲料を口に入れた後ブクブクと泡立ちを楽しむような飲み方も非常に危険です。

2.洗口液としての酸

強酸性水で洗口されると、唾液中の細菌は激減するが歯は溶けます。しかもブラッシングをして歯を丸裸にしてから洗口するので確実に溶けます。かといって洗口してすぐにブラッシングすると削れてしまいます。

3.職業としての酸

酸を扱う職業の方は酸蝕症を起こしやすいので注意が必要です。 ワインを口に含んでテイスティングするソムリエや塩素消毒が行われているプールで日に何時間も泳ぐ水泳選手など。 (塩酸、硝酸、酢酸などの強酸を扱うメッキ工場やガラス細工工場、バッテリー製造工場などの職業病でしたが、現在は職場環境の改善でほとんどなくなりました)

4.酸蝕症+ブラキシズム

ブラキシズムで歯が磨り減り酸蝕症で歯が溶けるというダブルパンチ。健康オタクによくみられますが、そこにオーバーブラッシングも重なることが多く、う蝕のない天然歯に冠をかぶせることが必要になってきます。

5.酸蝕症+口腔乾燥症

唾液は酸による脱灰に対して対抗する最も大切な味方。その味方が少ないので、強酸性水で守ってやろうというポジティブな思いが逆に悲劇を生み、冠を必要とすることになります。

6.体の中から口腔内に出てくる酸

・胃食道逆流症(GERD)

・摂食障害(持続性嘔吐)

・アルコール依存症

 

※参考書籍
 「ペリオリテラシー 歯周治療をめぐる情報のインプット・英知のアウトプット」
 山本浩正 著 医歯薬出版株式会社

 「知る・見る・対応する 酸蝕症」
 北迫 勇一、岩切 勝彦  クインテッセンス出版株式会社

Q6 酸蝕症の酸ってどこから来るんですか?
A6

外因性と内因性のものがあります。

外因性のもの

  • 酸性飲食物の過剰摂取
  • 薬物/薬剤
  • 職業性因子(メッキ工場、ガラス工場)

 

内因性のもの

  • 胃内容物の持続的逆流
  • 嘔吐(摂食障害)

 

※参考 「非う蝕性の歯質欠損を再検証するin2020」 黒江 敏史 先生

Q7 なぜ酸蝕症に注意しなければならないのですか?
A7

酸蝕症の罹患者は26.1%と言われており、すべての年代で起こります(乳歯を含む)。発症すると、エナメル質を広範囲に喪失させ、摩耗や咬耗を促進してしまいます(erosive tooth wear)。

 

※参考 「非う蝕性の歯質欠損を再検証するin2020」 黒江 敏史 先生

Q8 酸蝕歯はむし歯とは違うのですか?
A8

むし歯はむし歯菌の出す酸によって歯が溶ける病気です。
酸蝕歯は酸性の食べ物・飲み物によって純粋に化学的に歯が溶けてトラブルを起こした歯のことです。
食習慣・生活習慣によって、酸蝕歯になりやすいかどうかがわかります。 また、強い力で噛むために歯がすり減って象牙質が露出するような磨耗にも気をつけなければなりません。
普通は、頻繁に酸に触れない限り酸蝕歯にはなりません。 毎日続けているライフスタイルの中に酸蝕歯になるリスクが含まれていると知らぬうちに繰り返されて悪化します。 生活習慣のちょっとした改善も歯を守るためには大切です。飲食物やストレスで歯をいじめていませんか?

Q9 えっ!酸蝕症ってもっとめずらしい病気かと思っていました。4人に1人ってすごい数字ですね。
A9

そうなんです。軽度のものまで入れると、国内の調査では26.1%のかたに酸蝕症がみられました。ヨーロッパ7ヵ国の大規模調査でも29.4%という結果が出ていますので、この数字はおそらく国内の酸蝕症の罹患状況をつぶさにあらわしていると見て間違いないと思います。

※参考書籍 「nico 2018.2 クインテッセンス出版」

Q10 よく口のなかにすっぱい胃酸が上がってきます。これって、酸蝕症の原因になりますか?
A10

胃酸は強酸性。口のなかへの逆流は、酸蝕症の重大な要因になります。放っておくとノドからくる酸で歯の裏側や奥歯のほうから歯が溶けはじめ、よく噛めなくなってしまったり知覚過敏を引き起こすことも。消化器内科で早期に治療を受け、歯科でも歯が溶けていないか診てもらいましょう。

※参考書籍 「nico 2018.2 クインテッセンス出版」

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