歯・お口の状態について
Q1 | 最近食べ物が飲み込みにくくなったのですが、どうにかなりますか? |
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A1 | まずよく噛み、唾液と混ぜ、食べ物を飲み込みやすい形態(食塊)にすることが大切です。事前に固いものであれば柔らかく、大きいものであれば小さくしておく工夫もその助けになります。また、飲み込むときに使う筋肉が弱っている場合もあります。 筋肉のトレーニング方法として、「本気で10回大きく口を開ける」、または「連続10回嚥下を繰り返す」。 できれば朝昼夕とやってみてください。1ヶ月くらいすると少しずつ訓練効果がみられるようになります。 論文では、「開口筋が嚥下時に舌骨を挙上する筋肉であることを生かして、本気で口を開けることが舌骨上筋の筋力トレーニングとなり、嚥下時の舌骨挙上改善や咽頭残留減少などの結果が得られた。」という報告があります*)。 もし、唾液の量が少ない、お口の渇きが気になるというのであれば、口腔乾燥症(ドライマウス)かもしれません。こちらのQ&Aを参考にしてください。
*)Hasegawa S, Nakagawa K, Yoshimi K, et al. : Jaw-retraction exercise increases anterior hyoid excursion during swallowing in older adults with mild dysphagia. Gerodontology, 39(1): 98~105, 2022.
※参考資料 |
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Q2 | 親知らずは抜歯するべきでしょうか? |
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A2 | 親知らずの抜歯で考えるべき要素は3つあります。 ①全身的な要因まず、痛み・炎症があるときは抜歯をしたほうがよいです。 では、痛み・炎症がない歯を抜く必要があるのでしょうか? 全身的な基礎疾患がないうちに、抜歯をしたほうがよいと考えられています。 将来的なことについて、今抜歯したほうがよい理由は、(1)心筋梗塞、脳卒中、高血圧などの抜歯後出血のリスクがあるため、(2)糖尿病やがんなどの抜歯後感染のリスクがあるため、(3)肝硬変や腎不全などの抜歯後投薬困難なリスクがあるため、などがあげられます。 平成29年 厚生労働省 「疾患調査」によると、基礎疾患は35歳以上から増え、65歳以上だと130万人近く罹患するという報告があります。また、出血性素因のある内服薬を飲んでいる人は基礎疾患が増えているという大森赤十字病院のデータもあります。高脂血症、脊柱管狭窄症、動脈閉鎖症などの方は、出血性素因のある内服薬が関係しています。
②局所的な要因加齢とともに、30歳以上で親知らずと顎骨の癒着が進行します。癒着があれば、抜歯の際に骨を多く削る必要があり、時間がかかったり、腫れたりします。 隣在永久歯のむし歯に関しては、「近心傾斜している親知らずに隣接している永久歯の36%にむし歯を認められた」という報告があります。(BMC Oral Health volume 13, Article number: 37(2013)) 他にも、「近心傾斜した下顎親知らずに隣在する大臼歯の49%に歯根吸収が認められた」という報告もあります。(Mesial Inclination of Impacted Third Molars and Its Propensity to Stimulate External Root Resorption in Second Molars—A Cone-Beam Computed Tomographic Evaluation. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. Volume 73, Issue 3, March 2015, p379-386) これらの報告より、歯と顎骨が癒着進行する前に抜歯したほうがよいと考えられます。また、近心に傾斜して、歯冠が一部露出している場合には、隣在歯のむし歯のリスクがあるため抜歯したほうがよいと考えられます。
③精神的な要因通常の抜歯と違い、顎の骨を削るなどの操作があるため、抜歯は非常に恐怖を感じます。しかしながら、手術内容をよく理解し、メリットが上回れば抜歯したほうがよいでしょう。 抜歯は非常に怖いイベントですが、抜歯後の知覚麻痺のリスクは低ければ許容できるのではないかと考えられます。
※参考 |
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Q3 | 口内炎がなかなか治りません。どうすればよいでしょうか? |
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A3 | 加藤歯科医院では、通常、外用薬の塗り薬としてステロイド系の軟膏や含嗽剤の処方、レーザー治療を行います。 その他、栄養指導・アドバイスも行っています。 栄養指導・アドバイス①ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンCの多い食材を摂取しましょう。
②ビタミンB群、ビタミンCは水溶性ビタミンなので、こまめに摂取しましょう。 ③口腔内を清潔に保ち、刺激の多い食べものを控えましょう。 ④喫煙を控えましょう。 ⑤女性の場合、鉄分の多い食材も摂取しましょう。
2週間以上治らないものや、だんだん大きくなっていくようであれば、別の原因や病気の可能性もありますので、口腔外科を受診しましょう。 ※参考書籍 |
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Q4 | ドライマウスの原因を教えてください。またアドバイスをください。 |
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A4 | ドライマウスの臨床症状
ドライマウスの原因①医薬品-処方箋を確認
②疾患と障害
③頭頚部領域の放射線治療
④化学療法
⑤神経性のもの
たとえ薬剤を服用していなくても、65歳以上の人は、口腔乾燥と唾液分泌低下を起こすリスクが高いと言われています。3年間の研究において、唾液分泌量が少ない高齢者は、唾液分泌量が正常な高齢者に比べて、3年間に少なくとも1本の歯を失う可能性が高いことが報告されています1)。 口腔乾燥と唾液分泌減退はしばしば関連していますが、唾液分泌量が正常な患者さんでも口腔乾燥がみられることがある一方、唾液分泌量が非常に少ない患者さんでも常に口腔乾燥を経験するとは限りません2)、3)。 ドライマウスのアドバイス(全身的なものと歯科的なもの)
1)Caplan DJ, Hunt RJ. Salivary flow and risk of tooth loss in an elderly population. Community Dent Oral Epidemiol 2)Dods MW, et al. Health benefits of saliva: a review. J Dent 3)Vissink A, et al. Aging and saliva: a review of the literature. Spec Care Dentist. 1996 May-Jun;16(3):95-103.
※参考書籍 |
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Q5 | 口角炎になりました。何に気をつければよいでしょうか? |
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A5 | 口角炎は唇の端に炎症が起き、ひび割れたり化膿したりして、出血や痛みを伴うことがあります。 歯科治療時には口を開けてもらう必要があるため、患者さんは苦痛を感じます。一般的には、義歯のクラスプ部分が当たって傷ついたり、さまざまな原因で咬合が深くなり口角にシワができたりすると、そこに常に唾液が溜まって細菌感染を起こします。 その他にも、口腔乾燥症(ドライマウス)やビタミン欠乏などが原因であるといわれています。 ある耳鼻咽喉科での口角炎の細菌検査(*)によると、日本人80人のうちStaphylococcus aureus(Sa菌:黄色ブドウ球菌)が48.8%、カンジダ属が26.3%検出されたという報告があり、口腔内の常在細菌により引き起こされている可能性が高いことがわかりました。 このことから、正しい口腔ケアと細菌感染に負けない免疫力をつけ、健康な粘膜や皮膚を保つことが大切です。 口角炎がなかなか治らない方は、下記注意点を参考にしてください。 口角炎が治らないときに気をつけること
*岸本麻子, 他:口角炎について. 耳鼻と臨床, 56(3): 101-110, 2010. ※参考書籍 |
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Q6 | 下顎の親知らずを抜歯した後、知覚神経障害が起こる可能性があると聞きました。詳しく教えてください。 |
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A6 | 下顎智歯抜歯後には、舌神経で0.1~22%、下歯槽神経で0.26~8.4%の頻度で知覚障害が生じたという報告があります1)-9)。
予後については、下歯槽神経の96%、舌神経の87%の障害は、手術後4~8週間以内に回復し、その回復率は性別に関係なく、年齢と僅かに関連があることが報告されています10)。 また、下顎智歯抜歯後の下歯槽神経障害の大多数は6カ月以内に回復するという報告もあります11)。手術後6カ月を過ぎると回復率は非常に低くなりますが5)、1年以上経過した後に回復した症例の報告があります12)、13)。
1) Bataineh, A. B.: Sensory nerve impairment following mandibular third molar surgery. J. Oral Maxillofac. Surg., 59 :1012 – 1017, 2001 2) Brann, C. R. et al.: Factors influencing nerve damage during lower third molar surgery. Br. Dent. J., 186: 514,1999 3) Bruce, R. A, et al.: Age of patients and morbidity associated with mandibular third molar surgery. J.A.D.A., 101: 240,1980 4) Carmichael, F. A. and McGowan, D. A.: Incidence of nerve damage following third molar removal: A West of Scotland Oral Surgery Research Group study. Br. J. Oral Maxillofac. Surg., 30: 78 – 82,1992 5) Kipp, D. P. et al.: Dysesthesia after mandibular third molar surgery: A retrospective study and analysis of 1,377 surgical procedures. J.A.D.A., 100 :185 – 192,1980 6) Leung, Y. Y. and Cheung, L. K.: Risk factors of neurosensory deficits in lower third molar surgery A literature review of prospective studies. mnt. J. Oral Maxillofac. Surg., 40 :1,2011 7) Lopes, V. et al.: Third molar surgery: An audit of the indications for surgery, post – operative complaints and patient satisfaction. Br. J. Oral Maxillofac. Surg., 33: 33,1995 8) Mason, D. A.: Lingual nerve damage following lower third molar surgery. mt. J. Oral Maxillofac. Surg., 17: 290,1988 9) Rud, J.: The split – bone technic for removal of impacted mandibular third molars. J. Oral Surg., 28: 416,1970 10) Hillerup. S. and Stoltze, K.: Lingual nerve injury in third molar surgery. I. Obeservations on the recovery of sensation with spontaneous healing. Int. J. Oral Maxiltofac Surg., 36: 884 – 889, 2007 11) Queral – Godoy,E. et al. : Incidence and evolution of inferior alveolar nerve lesions following lower third molar extraction. OS.OM.OP.OR. Endod., 99: 259-264,2005 12) Van Sickels, J. E. et al.: Effects of age, amount of advancement, and genioplasty on neurosensory disturbance after a bilateral sagittal split osteotomy. J. Oral Maxillofac. Surg., 60: 1012 – 1017, 2002 13) Alling,C.C. III : Dysesthesia of the lingual and inferior alveolar nerves following third molar surgery. J. Oral Maxillofac. Surg., 44: 454-457,1986
※参考書籍 |
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Q7 | 顎関節症の症状と治療法について教えてください。 |
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A7 | 顎関節症の分類顎関節症は、①咀嚼筋の疼痛(開口障害のあるものとないもの)、②関節円板の転位(復位性と非復位性、開口障害の有無)、③顎関節のその他の状態(関節痛、関節炎、関節症)の3つに分類することができます1)。
顎関節症の症状症状は、心理学的、感情的、あるいは精神的起源を持つことが報告されています2)。不安のような感情的状態は、中枢神経系の侵害受容インパルス(nociceptive impulse)を変えることによって疼痛閾値を変化させることがあります。同様に、非機能的習癖の頻度や強度や持続時間の増加もまた咀嚼筋の過活動や顎関節の負担過重と関係しますし、その結果、顎関節症の発症にも関係します3)4)。その一方で、顎関節症の症状、特に疼痛は、抑圧や精神疾患の進展の原因やその増強因子として示唆されてきました5)。
顎関節症の罹患率は5%~12%6)であり、そのうち約16%の患者さんは治療を必要とします7)。その他、全人口の75%ほどが顎関節の機能に関して少なくとも1つの異常な徴候を有しており、33%が顔面痛を有していたという報告もあります8)。
顎関節症の患者さんのなかで最も多いのは咀嚼筋の疼痛を訴える患者さんです。咀嚼筋に生じる疼痛は、筋の固縮による疼痛と、筋の痙攣による疼痛と、筋筋膜痛の3種類があります。筋筋膜痛は、骨格筋の緊張した部分や筋膜中に生じる疼痛です。筋筋膜痛の原因は多要素的であり十分には解明されていませんが、単一の、あるいは繰り返し加えられる身体力学的過重が筋の傷害を生じさせ、それが原因になることがあります9)。また、非機能的習癖、姿勢異常、心理的及び身体的環境なども原因として考えられ、特にブラキシズムは重要な原因であるという論文もあります10)。
咀嚼筋の疼痛は、顔面痛と同義語ではありませんが、顔面痛の大部分は咀嚼筋の疼痛です。顔面痛というのは、一般に、複数の症状、あるいは疼痛部位の特定が難しい疼痛を指し、それらは複数の原因から生じるものです11)。顔面痛の原因には、歯性、筋性、顎関節内の異常、神経障害、偏頭痛、関連痛などが考えられます11)。
顎関節症の治療もっとも一般的に行われている治療法は、口腔内装置(59%)と物理療法(54%)と家族での顎運動(34%)です。その他、ハリ治療(20%)、カイロプラクティック(18%)、トリガーポイントへの注射(14%)、運動あるいはヨガ(7%)、沈思(黙想)あるいは呼吸法(6%)なども行われているという報告があります12)。 調査の対象になった筋筋膜性顎関節症の患者さんたちが疼痛緩和に最も効果的と感じたのは自分自身の活動であり、それは具体的には顎運動、ヨガあるいは運動、黙想、マッサージ、温熱療法などです。これらが多少なりとも効果があったと答えた人は84%で、口腔内装置が多少は役に立ったと答えた人は64%で、11%の人は口腔内装置の装着で疼痛が悪化したと答えています。
1) Dworkin,S.F. : Research diagnostic criteria for temporomandibular disorders : Review, criteria,examinations and specifications, critique. J. Craniomandib. Disord., 6 : 301, 1992 2) Resende,C.M.B.M. et al. : Relationship between anxiety, quality of life, and sociodemographic characteristics and temporomandibular disorder. OS.OM.OP.OR., 129 :125, 2020 3) Bonjardim,L.R. et al. : Anxiety and depression in adolescents and their relationship with signs and symptoms of temporomandibular disorders. mnt. J. Prosthodont., 18 : 347, 2005 4) Monteiro,D.R. et al. : Relationship between anxiety and chronic orofacial pain of temporomandibular disorder in a group of university students. J. Prosthodont. Res., 55 :154, 2011 5) Chisnoiu,A.M. et al. : Factors involved in the etiology of temporomandibular disorders – a literature review. Clujul. Med., 88 : 473, 2015 6) Leeuw,R. and Klasser,G.: Orofacial pain: Guidelines for assessment , diagnosis, and management, 5th edition. Quintessence Publishing, Hanover Park,2013 7) Al – Jundi, M.A. et al.: Meta – analysis of treatment need for temporomandibular disorders in adult nonpatients. J.Orofac.Pain, 22 : 97 107,2008 8) Wright,E.F. and North,S.L. : Management and treatment of temporomandibular disorders : a clinical perspective. J. Manual Manipulat. Therapy, 17 : 247-254, 2009 9) Wheeler, A.H. : Myofascial pain disorders : theory to therapy. Drugs, 64 : 45-62,2004. 10) Yurttutan, M.E. et al. : Which treatment is effective for bruxism : Occlusal splints or botulinum toxin? J. Oral Maxillofac. Surg., 77 : 2431-2438, 2019 11) Baker, J.S. and Nolan, P.J. : Effectiveness of botulinum toxin type A for the treatment of chronic masticatory myofascial pain. A case series. J.A.D.A., 148 : 33-39, 2017. 12) News : Self – care method may provide better pain relief than other therapies for myofascial temporomandibular disorder, study finds. J.A.D.A., 150 : 330, 2019
※参考書籍 |
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Q8 | 歯周病は歯を失う怖い病気と聞きました。どんな病気なのですか? |
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A8 | 歯周病は、口のなかに棲む歯周病菌が引き起こす感染症です。歯周病菌や歯周病菌の出す毒素が引き起こす炎症によって歯ぐきが腫れる歯肉炎になります。そしてこの状態のまま放置すると、歯を支えるセメント質、歯槽骨や歯根膜が破壊される歯周炎へと悪化し、ついには支えを失った歯が抜けてしまうという恐い病気です。 歯周病菌はお口のなかの常在菌で、先住者として外から入ってくる他所者(よそもの)の菌を寄せ付けないような役割も果たしつつ、ふだんは人間と共生しています。 ところが、みがき残しなどのために細菌のかたまりであるプラークがお口に溜まって成熟すると、歯周病菌はパワーアップし、共生のバランスが崩れて炎症を引き起こしてしまうのです。 歯周炎になると歯ぐきの溝がさらに深くなり、ますますプラークが溜まりやすくなります。すると炎症はさらに悪化し、歯ぐきから血や膿が出たり、歯がぐらついて噛みにくく、口臭もひどくなっていきます。 発症すると自然に治ることはなく、歯槽骨は一度溶けてしまうと、決してもとどおりにはなりません。歯槽骨が大きく失われると、治療が手遅れになり、抜歯になってしまうことも少なくないのです。 セルフケアと歯科のサポートで歯は残せます。 「歯を失う怖い病気」というイメージが強い歯周病。ですが、テレビCMなどで見られるように、短期間で歯がグラグラになって抜け落ちてしまうことはふつうはありません。統計的には、歯周病になりにくい人が1割、進行しやすい人が1割で、残りの8割の人はゆっくり進行していきます。 歯周ポケットができるとそのなかの掃除はとても難しく、しかも歯石はいったん溜まると硬くこびりつき、歯みがきでは取れません。プロのワザでプラークと歯石を取り除き、歯周ポケットの中の歯周病菌を減らすことこそ、歯周病の進行を食い止めるための方法です。 つまり、歯周病を予防するには、セルフケアだけでなく、歯周病の早期発見が重要です。早く異常がわかれば、その分早く手が打てます。そのためには、定期的に歯科医院で健診を受けることが大切です。もし歯周病になっていて治療を受けたのなら、治療が終わったときが歯を守る新たなスタート地点です。再発を予防するために健診に通いましょう!
タバコで歯周病が10年速く進行する!タバコは歯周病の進行を速めます。約4,800人の初診患者さんの喫煙状況と歯周病の進行度を比較したところ、中等度・重度歯周病のかたの割合が、30代の喫煙患者さんと、40代の非喫煙患者さんでは同じくらいとなりました。40代の喫煙患者さんと50代の非喫煙患者さん、50代の喫煙患者さんと60代の非喫煙患者さんも同じような割合でした。 喫煙の有無による中等度・重度歯周病患者さんの割合(4,783人中)
出典:日本ヘルスケア歯科学会実態調査1 (2014年初診患者)
つまり、「タバコを吸っている人は、吸わない人より10年歯周病の進行が速くなる」と言えます。歯周病を予防するために、タバコはきっぱりやめましょう(加熱式タバコも同じです)。
※参考書籍 |
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Q9 | ナイトガードって何ですか? |
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A9 | ナイトガードとは、睡眠中の不随意運動(主に睡眠時ブラキシズム)による咬合力から歯、補綴装置、歯周組織、顎関節等を保護するために、夜間に装着する口腔内装置のことをいいます。 近年、ナイトガードという名称はブラキシズム(食いしばりや歯ぎしりなど)に対する専用装置の名称として使用されるようになってきました。しかし、ナイトガードには次のように様々な呼び方があります。
国内医学論文情報インターネット検索サービスの医学中央雑誌(医中誌)においては、ナイトガードはオクルーザルスプリントと同義語として検索されますが、これらの名称のスプリントは異なる用途も含んでいます。例えば、オクルーザルスプリントは顎関節症の治療や咬合の安定等の治療目的のものを含んでいます。一方で、ナイトガードは漂白や口腔乾燥予防のために薬剤を満たすフレームワークの名称としても用いられています。
ナイトガードにはハードタイプのものとソフトタイプのものがあります。
ハードタイプスタビライゼーションスプリント歯科の臨床で最もよく用いられているのは、アクリルレジン製のハードタイプのスタビライゼーションスプリントです。主に上顎に装着し、全歯列で咬合接触するものです。 スタビライゼーションスプリントは、歯や補綴装置の保護を主目的としていますが、2週間程度の短期的な睡眠時ブラキシズムの減少も期待できることが報告されています1-3)。
ソフトスプリントソフトスプリントはエチレンビニルアセテート(EVA)やオレフィン等の熱可塑性樹脂シートを加圧・吸引して製作するもので、その柔軟性ゆえに顎口腔機能系への負担を減らすと考えられていますが、睡眠時ブラキシズム等咀嚼筋の活動抑制に対する効果の発現には長時間を要し、有効性に劣ることが示されています4)。一方、ハードタイプに比べ、咬合調整(咬頭嵌合位での均一な咬合接触、ガイドの付与)・修理が困難であり、経年劣化は早く、穿孔することもしばしばあります。
1) Dubé C et al: Quantitative polygraphic controlled study on efficacy and safety of oral splint devices in tooth-grinding subjects. J Dent Res, 83 (5): 398-403, 2004. 2)Matsumoto H et al: The effect of intermittent use of occlusal splint devices on sleep bruxism: a 4-week observation with a portable electromyographic recording device. J Oral Rehabil, 42 (4): 251-258, 2015. 3)大倉一夫 他:スプリントによる睡眠時ブラキシズムに対する治療効果:予備的検討. 日口腔リハ誌, 29 (1): 21-27, 2016. 4)Okeson JP: TMD Management of temporomandibular disorders and occlusion. 5th ed. Elsevier, 2003.
※参考書籍 |
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Q10 | ナイトガードはどういうときに必要なんですか? |
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A10 | ナイトガードの咬耗による睡眠時ブラキシズムの強さと補綴装置脱落の関係を調べた研究1)では、補綴装置が脱落した患者さんは睡眠時ブラキシズムが強いほど多く、合着後早期に脱落しており、15年後の脱落率は睡眠時ブラキシズムの程度が弱い群、中程度の群、強い群の順に9%、18%、24%であったことを報告しています。 したがって、術前に睡眠時ブラキシズムの有無やその程度を精査し、重度の睡眠時ブラキシズム患者である場合は、ナイトガードを使用して積極的に補綴装置や支台歯を保護することが望ましいです。 特に多数歯の欠損を伴うブリッジの症例や、セラミック等の前装材料を咬合面に使用した症例には配慮が必要です。また、可撤性義歯の症例で残存歯が少なく義歯非装着時の咬合支持が乏しい症例では、咬合性外傷を生じる危険性が高いため、ナイトガードあるいは夜間義歯の使用が勧められます2)。 睡眠時ブラキシズムがインプラントの機械的トラブルのリスクファクターとされています3)。 例えば、オッセオインテグレーション(インプラント体と骨の結合)が獲得される前に睡眠時ブラキシズムの力が特定のインプラント体に集中すると、脱落のリスクが増加します。また、オッセオインテグレーションが獲得された後であっても、睡眠時ブラキシズムによると考えられる上部構造の破損やスクリューの緩み等の問題が頻繁に報告されています4)。 その対処法も、やはりナイトガードの使用によって過大な咬合力から歯列を守ることが中心となっています。
1)友永章雄 他:Sleep Bruxismが修復物脱落に及ぼす影響. 補綴誌, 49 (2):221-230, 2005. 2)馬場一美, 加藤隆史:完全理解!睡眠時ブラキシズム-科学的根拠に基づき、補綴臨床において何をすべきか?第2部 補綴臨床編 睡眠時ブラキシズムから補綴装置を守る. The Quintesence, 30(2): 306-326, 2011. 3)田邉憲昌:インプラントの咬合付与について:日中のブラキシズムがインプラント上部構造に与える影響. 日口腔インプラント誌, 29(2): 79-85, 2016. 4)馬場一美:インプラントの咬合付与について:睡眠時ブラキシズム患者におけるインプラントの咬合管理. 日口腔インプラント誌, 29(2):71-78, 2016.
※参考書籍 |
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