Question
咬耗の激しい患者に咬合挙上を行うときのポイントを教えてください。
Answer
●年齢の割に高度に歯が摩耗する原因は?
年齢の平均よりも高度に摩耗した患者では、高度に摩耗する原因があります。この原因を無視して補綴をすると失敗する可能性がありますので、次に示すようないくつかの点に注意すべきです。
1.ブラキシズム(歯ぎしり)をしている可能性がある。
2.咬合力(咬む力)が強い。
3.固い食品が好き。
4.安静位空隙(顎の力を抜いたときの上下の歯の間に出来るすき間)が失われている。
また、咬耗が激しいための結果として、
1.咬合高径が低下している。
2.咬頭嵌合位が失われている。
3.顎位が前方に出ている。
4.顎関節に無理な力が加わっている。
5.顎関節のサイドシフト量が増加している。
などがあります。
●咬合挙上時の注意点は?
補綴物で咬合高径を挙上する場合には、次の点に注意する必要があります。
1.咬合高径を挙上すると、相対的に下顎が後退位になる。
2.筋肉位である中心咬合位と最後退位の距離が変化する。
3.安静位空隙が失われる可能性がある。
4.すべての歯を削るために元の顎位や顎運動情報が失われる。
5.すべての歯が補綴物になるので、咬合面の違和感が発生する。
このように患者さんは、すべての歯の咬合面形態や摩耗形態、咬合高径を変化させることによる咀嚼・発音・嚥下機能の変化が予想されるので、暫間被覆冠で十分に検討する必要があります。
●咬合挙上に際して基準となる点
1.挙上の量は、臨床歯冠長が少ないので、臼歯の咬合面を削合しなくてすむように決定する。大臼歯部で咬合面を削合しないで2~3mmの挙上が必要である。
2.安静位空隙があれば、これから2~3mm低下した位置に設定する。
3.咬合採得は患者固有の位置で採得するように心がけ、暫間被覆冠で咀嚼発音嚥下機能が確保されていることを十分に確認する必要がある。
●補綴物の摩耗に対する注意点
補綴をしても依然として咬耗の激しい患者さんでは補綴物が摩耗します。
1.摩耗を防ごうとして犬歯誘導にすると、咀嚼機能を阻害し患者には不評である。
2.摩耗を防ごうとして陶材で咬合面を製作すると、陶材は破折する。
3.咬合力のある男性は、臼歯部がパラジウム合金でも摩耗が進行するが、力のない女性では咬合面が軟らかい金合金(20K)を使用するほうが咬合性外傷が発生しにくいと思われる。
4.摩耗を許容する形にしないと、長期的には不調和が発生する可能性がある。
5.長期的には摩耗が進行し、再度補綴を行う必要性があることを患者さんに話しておく。
補綴物破壊防止のためにスプリントなどを使用すると、顎位が変化してしまうので使わないようにします。
※参考書籍
「Dental Frontier 2003 Autumn 25」 丸茂 義二 先生