Question
口臭についてもっと知りたいのですが?
Answer
口臭は、大きく3つに分類することができます。
1.口腔由来の口臭
口腔内に原因がある場合、口腔細菌とその栄養源のコントロールが基本となります。歯ブラシ、デンタルフロス、歯間ブラシ、舌ブラシなどさまざまな清掃用具を用いてプラーク、舌苔、食物残渣などの機械的除去を行います。とくに歯間部に圧入された食片は、腐敗臭の原因となりやすいので、同部位の清掃は重要です。舌ブラシの使用にあたっては、舌根部から前方へ搔き出すように数回ストロークを加え、過度の力を加えないようにしましょう。不良修復物などプラークの停滞しやすい部位があればその改善が必要です。さらに義歯の清掃も忘れてはいけません。一方、う蝕、歯周病、粘膜潰瘍などの疾患が存在する場合は、その治療を進めていきます。これらは口腔由来の口臭の根本的な治療です。
プラーク、食物残渣などの機械的除去以外の口臭抑制法としては、さまざまな製品を応用した化学的なコントロールがあります。その作用機序は含有成分による口腔細菌の殺菌、消臭、マスキングが主なものです。消臭とは化学的に臭い物質を分解、または物理的に臭い物質を捕捉することで、マスキングとは良い香りで悪臭を覆い隠すことです。
歯磨剤
作用成分 | 作用機序 |
---|---|
トリクロサン、クロルヘキシジン |
殺菌 |
フラボノイド |
消臭 |
ペパーミント、スペアミント |
マスキング |
洗口剤
作用成分 | 作用機序 |
---|---|
チモール、塩化セチルピリジニウム |
殺菌 |
亜鉛、過酸化水素 |
消臭 |
口中清涼剤
作用成分 | 作用機序 |
---|---|
アセンヤク、チョウジ |
殺菌 |
ℓ-メントール |
マスキング |
ガム
作用成分 | 作用機序 |
---|---|
フラボノイド、ローズマリー、ラッカーゼ |
殺菌 |
ペパーミント、スペアミント |
マスキング |
タブレット
作用成分 | 作用機序 |
---|---|
プロテアーゼ |
タンパク分解 |
洗口剤は、アルコールをベースにして抗菌剤や香料を含んだものが多くあります。抗菌剤としてもっとも効果が認められているのはクロルヘキシジンであり、0.12~0.2%溶液に口臭抑制効果が認められていますが、日本では粘膜ショックの報告があり、この有効濃度以下に調整されています。その他トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、エッセンシャルオイルにも口臭抑制効果が認められています。
また、近年、金属イオンや酸化剤の口臭抑制効果が報告されています。金属イオンはVSC前駆体のチオール基を酸化して、不溶性の硫黄化合物を形成します。酸化剤は硫黄含有アミノ酸がVSCに変化する過程を阻害します。1%亜鉛または3%過酸化水素含有洗口液に口臭抑制効果が報告されています。洗口剤の過度の使用は味覚異常や歯、粘膜の着色をまねくことがありますので注意が必要です。
さらに、果物由来のプロテアーゼを配合したタブレットを用いて舌苔の化学的清掃を行い、口臭を抑制する試みをなされています。これら口臭抑制製品に共通する特徴としては、その効果が短時間しか持続しないということです。口臭の根本的な治療とはなりませんが、それぞれの製品の特徴を理解し、生理的口臭が強くなる時間帯に使用すれば有効です。
2.口腔以外に由来する口臭
口腔以外に由来する口臭の場合、原因疾患の治療が基本となりますが、実際には治療困難な場合もあります。これらの口臭の原因物質は下記を参照して下さい。多くは、口腔から排出される呼気の臭いに加えて鼻腔から排出される気体に臭いを感じる場合に疑うことになります。
嫌気性菌などが産生する臭い |
呼吸器疾患 消化器疾患 耳鼻咽頭疾患 |
甘い臭い |
咽頭部、気管支、肺のカンジダ感染 |
メチルメルカプタン |
肝硬変、肝癌 |
アセトン |
糖尿病、飢餓、肥満、脂質代謝の指標、その他の高ケトン血症をきたしうる病態(手術による体外循環や低体温、発熱や感染や胸痛発作などによるストレス、低血圧や出血性ショック、内分泌疾患、血中カテコールアミン増加)、高脂肪食 |
トリメチルアミン |
トリメチルアミン尿症、腎不全や肝不全による続発性トリメチルアミン尿症 |
アンモニア |
肝硬変、肝細胞癌、尿素サイクル酵素欠損症、激運動後の高乳酸血症、外因性アンモニア曝露、代謝性肝疾患(Wilson病、ヘモクロマトーシス)、大循環系短絡路 |
メタノール、エタノール |
飲酒、アルコール依存症 |
トルエン |
シンナー中毒者 |
セレン(ニンニク臭) |
セレン中毒 |
シアン化合物(焦げたアーモンド臭) |
シアン中毒 |
フルスルチアミン |
アリナミン(商品名)摂取時 |
その原因には、慢性副鼻腔炎、後鼻漏、鼻腔や上部気道の異物、鼻咽頭膿瘍、慢性扁桃炎、気道感染、肺癌などの鼻咽頭および呼吸器疾患、胃食道逆流症、幽門狭窄、胃炎、ピロリ菌感染などの消化器疾患が考えられます。
また、糖尿病性ケトアシドーシス、腎不全、肝不全も特徴的な臭気を発生させます。稀ではありますが、トリメチルアミン尿症は強い魚臭を発生します。小児の腸内寄生虫感染は、口臭発生と関連があるという報告もあります。これらの疾患が原因で生じる口臭に対する治療報告の数は限られています。
口臭の原因と考えられる要因を除去したにもかかわらず口臭が持続し、扁桃小窩に口臭発生基質の存在が疑われる時に、扁桃切除が行われることがあります。ピロリ菌の除去療法で口臭が減少することが報告されていますが、口腔内診査がなされていないため、その関連性は慎重に判断しなければなりません。さらに消化器由来の口臭に対し、非病原性大腸菌の生菌懸濁液を内服して口臭が低下したという報告もあります。
一方、これらの疾患がない健康な場合でも、ストレスのかかる状態では口臭が強くなることがあります。学生に科目試験を課した場合、試験当日には口臭が強くなり、唾液流出速度が減少すること、また学生にビデオを用いた不安誘発試験を行うと口臭が強くなることなどが報告されています。さらに女性の性周期と口臭の関係も報告されています。Queirozたちは、月経前症候群を呈する女性は、対照と比べて月経前期に高いVSC濃度を示しますが、唾液流出速度には差がないことを示しています。一方、Calilたちは、月経前期および月経期には卵胞期と比較してVSC濃度が高くなり、唾液流出速度は低下することを示しています。これらは一時的なものでありますが、口臭が強くなる可能性のある状況下では、口腔清掃、ストレスの解消、水分摂取などに努め、その予防をすることが必要と考えられます。
3.仮性口臭症、口臭恐怖症
実際に口臭はないのに口臭があると信じ込んでいることです。
※参考書籍
「ビジュアル 歯周病を科学する」
監修 天野敦雄 岡賢二 村上伸也 クインテッセンス出版株式会社