Question
歯科医院に通うと菌血症になるの?
Answer
近年、SRP(Scaling root plaining)やプロービングなどさまざまな歯周治療で、菌血症が発生することが報告されています。
血液中の細菌は高速度で全身を循環し、多くは肝臓に捕獲され処置されていきます。そして、そのほとんどが1時間以内にほぼ検出されなくなります。したがって、健常者にとってはこの一時的な菌血症はほとんど問題になりません。しかしながら、一部の疾患および状態においては、生存した菌が体内のさまざまな臓器に定着し、重篤な影響を及ぼすことがあります。
1. 感染性心内膜炎
感染性心内膜炎(IE : infective endocarditis)とは、細菌により心内膜や心臓弁に生じた感染症のことです。人工弁置換術の既往がある患者さんや心臓弁に障害がある患者さんに細菌感染が起きると、心内膜や心臓弁に細菌が接着・増殖し、心内膜炎を引き起こすことがあります。下記に感染性心内膜炎になりやすい基礎疾患をまとめました。中でも、最高リスク群の患者さんにこの疾患が生じると、合併症を起こしやすく死亡率も高くなります。そして重要なことですが、この疾患は歯科治療後に発症するケースが多いということが知られています。
<感染性心内膜炎になりやすい基礎疾患および予防投与推奨度>
1)最高リスク群(予防すべき患者)
ClassⅠ 特に重篤なIEを引き起こす可能性が高い心疾患
・人工心臓弁置換者
・感染性心内膜炎の既往を有する患者
・チアノーゼ性先天性心疾患
・体循環系と肺循環系のシャント作成術が実施された患者
2)高リスク群(予防したほうがよい患者)
ClassⅡa IEを引き起こす可能性が高い心疾患
・ほとんどの先天性心疾患
・後天性弁膜症
・閉塞性肥大型心筋症
・現逆流を伴う僧帽弁逸脱
3)リスク群(予防を行う妥当性を否定できない患者)
ClassⅡb IEを引き起こす可能性が必ずしも高いことは証明されていない心疾患
・長期にわたる中心静脈カテーテル留意患者
・人工ペースメーカーあるいは植込み型除細動器使用者
「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)」より
2.人工関節置換術後の感染
近年、整形外科分野では関節の変形やリウマチ、骨頭壊死などに対し、人工関節置換術が多く行われています。この手術は細菌感染が絶対禁忌のためにクリーンルームにて無菌状態で行われます。感染は術中だけでなく、術後も避ける必要があります。しかしながらあくまでも異物であり、かつ複雑な構造をしている人工関節周囲では、まれに血行性の感染が起きてしまいます。治療はきわめて困難となり、最悪の場合は人工関節を除去する必要が出てきます。そしてその原因としては、尿路感染や歯科治療による菌血症が危険因子とされています。
3. 免疫力低下者
現在、歯周病とさまざまな全身疾患との関連が示唆されています。そのため、菌血症が歯周病と全身疾患とを取り持つ因子である可能性も考えられます。免疫疾患患者や重度の糖尿病患者、および免疫力が低下した高齢者には抗菌薬の予防投与が必要と思われます。
※参考書籍
「ぺリオドンタルメディスンに基づいた抗菌療法の臨床」
編集 三辺正人 吉野敏明 田中真喜 医学情報社