Question
妊娠中の歯科治療について教えてください。
Answer
妊娠・授乳中の患者さんが歯科治療を受けるとき、母子両者の安全性について考慮しなければなりません。周産期の時期、現在の体調などを的確に問診し、適切な対応が必要となってきます。時に、薬剤の使用やエックス線検査などは、慎重な対応となります。
しかしながら、歯科疾患によって食事摂取が困難になってしまうと、母体にも胎児や幼児にも悪影響を及ぼすことになります。不必要に薬の服用を避けたり、歯科処置を延期したりすると歯科疾患が悪化してしまいます。歯科医師は治療の必要性と危険性を照らし合わせるための十分な知識と、その裏づけによる的確な判断が必要とされます。
的確な判断をするためにどのようなことを問診でお聞きする必要があるのかをご紹介します。
1. 妊娠何ヶ月ですか?(産後どのくらいですか?)
周産期の時期をよく把握し、処置の必要性と危険性を照らし合わせて対応します。
不必要に治療を回避したり、延期したりはできません。
歯科治療は妊娠中・産後のどの時期も絶対やってはいけないということはありませんが、歯科治療に緊急性がなければ、妊娠中期、産後2ヶ月以降の安全な時期に実施します。
各周産期について知りたい方は以下を参考にして下さい。
●妊娠初期(1~4ヶ月)
妊娠した月経周期が妊娠1ヶ月で、予定月経のなかった日から2ヶ月に入ります。受精・着床から胎盤完成までの時期です。流産や催奇性などの問題がありますので、歯科治療は緊急性がなければ回避するべきです。
●妊娠中期(5~7ヶ月)
胎盤が完成し、安定した時期です。ほとんどの歯科治療が可能です。
●妊娠後期(8ヶ月以降)
胎児の成長によって、横隔膜が押し上げられ、心臓への負担の増加や呼吸数の増加などが生じてきます。
また、胎児循環や分娩への影響を考慮して、歯科治療は緊急性がなければ回避するべきです。
●産後1ヶ月
生理的にも精神的にも不安定であるため、歯科治療は緊急性がなければ回避するべきです。
●産後2ヶ月以降
ほとんどの歯科治療が可能です。
2. 体調はいかがですか?
妊婦は、ホルモンバランスの変化や胎児の成長にともない様々な体調変化が生じます。妊婦の現在の状態をよく把握し、歯科治療を施行することが大切です。また、妊婦は、歯肉炎や口内炎など口腔内に様々な変化をもたらします。体調に併せて、ブラッシング指導を含めた積極的歯科的管理が重要です。妊娠中毒症(血圧上昇、蛋白尿、初産婦に多い)の可能性も考慮し、最近の血圧やむくみの有無も確認します。
3. 食事をしっかり摂っていますか?
妊婦にとって、食事の摂取は母体だけでなく胎児の成長のためにも重要です。
歯科疾患が原因で食事の摂取に支障が生じている場合、まずはその解決を検討するべきです。
※ 薬剤やエックス線の安全性について
妊娠中期および産後2ヶ月以降(授乳中)の安全な時期で、治療上の有益性が危険性を明らかに上回る場合であっても、薬剤やエックス線の使用については、患者さんに十分に説明し同意を得た後に使用します。各安全性については以下をご確認下さい。
●抗生剤
ペニシリン系、セファム系、マクロライド系のアジスロマイシンがより安全です。テトラサイクリン系、アミノグリコシド系、クロラムフェニコール、ニューキノロン系、サルファ剤は避けるべきです。
●鎮痛剤
可能な限り、非ステロイド抗炎症薬の使用は控えてください。アセトアミノフェンが比較的安全です。
●局所麻酔
胎盤を通過して胎児血中に移行、また乳汁中にも容易に移行しますが、悪影響を及ぼす可能性は極めて少ないものとなっています。
●エックス線
歯科での使用による被爆量は、問題にならないとされています。しかしながら、撮影回数は可能な限り少なくするように考慮しなければなりません。当然ですが、腹部の遮蔽は必ず行います。
※参考書籍
「歯科医院のための全身疾患医療面接ガイド」
監修 柴崎 浩一 メディア株式会社