Question
前歯の歯ぐきが腫れてきたので歯医者に行ったら、セメント質剥離ではないかといわれました。セメント質剥離って何ですか?
Answer
セメント質剥離とは、歯の構成要素のひとつであるセメント質が剥がれ落ちることです。
セメント質剥離が起こる内的要因としては加齢による組織の劣化、外的要因としては過剰な応力によるストレスが考えられています。臨床的にセメント質剥離を起こす原因として、様々なものが検証されています。
セメント質剝離のリスク因子
1)歯種
前歯の方が臼歯に比べてセメント質剥離に関する報告が多い傾向がある。
2)性別
ある論文では男性は発症率が高いと報告している1)が、他に有意差を持って男女差を論じることができるデータは存在しない。
3)年齢
60歳以上で発生率が高くなるとしている1)。
4)根管治療の既往
根管治療の既往とセメント質剥離に関して有意な相関関係はない。
5)外傷の既往
約10%程度に外傷の既往が見られるのみで1),2)、セメント質剥離の発生に関して相関性はなかった。
6)咬合性外傷もしくは過大な咬合力の存在
多くのケースレポートでは咬合性外傷や過大な咬合力がセメント質剥離の潜在的原因となり得ると考察している。
従来「男性」、「高齢」などはセメント質剥離のリスク因子と考えられてきたが、強い相関がないという結果になっており、症例をみる際に広い視点が必要です。
一方、咬合性外傷・過大な咬合力は、ある程度相関関係を認めることができ1)、さらに症状の憎悪因子となることよりコントロールする必要があります。
セメント質剥離によって起こる歯周組織の変化
セメント質剥離片は生体に異物として認識され、周囲歯槽骨の炎症による吸収が引き起こされます。その結果として、歯肉・歯槽粘膜の腫脹、歯周ポケットの形成、プロービング時の出血(BOP)、歯周ポケットより排膿、sinus tractの形成および排膿、歯の動揺などの臨床症状が見られるようになります。ただしこれらの症状はセメント質剥離特有のものではありません。
セメント質剥離の診断方法
セメント質剥離の診断は非常に困難で、複数の方法で確実な診断をする必要があります。
1)臨床症状
初期の段階において軽度な不快感として認識される場合があるものの、疼痛はほとんど感じない場合が多いです。また後に疼痛が発現しても限局化しない場合も多く診断が困難です。
2)口腔内所見・歯周組織検査
多くの場合、歯肉や歯槽粘膜の発赤・腫脹またはsinus tractの形成を伴います。歯周組織検査においては歯周ポケットの形成、BOP、排膿などが見られることもありますが、剥離片が根尖側にあり辺縁の歯槽骨の破壊や付着の喪失がない場合にはこれらが見られないこともあります。
3)歯髄診査
根管治療の既往がない歯では歯髄は生活反応を示します。鑑別診断のために定期的な歯髄診査が重要です。
4)X線検査
歯根面から不完全・完全剥離した不透過像が観察されることがあります。その際、剥離片の形態は、針状や粒状・雨滴状などさまざまな形態を取ります。さらにその周囲に炎症性の骨吸収を生じている場合は歯槽硬線の消失した透過像として観察されます。通常のデンタルX線写真では近遠心面に剥離片が存在するときには比較的容易に発見できますが、頬舌側に存在するときには発見が非常に困難となります。そのため偏心投影なども有効な手段となってきます。CBCT撮影による読影は有効ですが、被曝量などを考慮して必要に応じて行うことが好ましいといえます。
5)外科的診断
セメント質剥離はその臨床症状や所見が似通った原発性辺縁性歯周炎、原発性根尖性歯周炎、また垂直性歯根破折などと鑑別診断を要します。他にX線所見より各種嚢胞や腫瘍など多種多様な疾患とも鑑別診断も要します。つまり、探索的手法、抜歯を含めた外科的手法により確定診断が必要となります。
セメント質剥離の治療手順
- 歯内療法学的ステップ
- 歯の動揺のコントロール
- 非外科的歯周アプローチ
- 歯周外科処置
- 確定的外科処置
1)Lin HJ, Chan CP, Yang CY, et al. Cemental Tear: Clinical characteristics and its predisposing factors. J Endod 2011; 37: 611-618.
2)Lee AHC, Neelakantan P, Dummer PMH, et al. Cemental tear: Literature review, proposed classification and recommendations for treatment. Int Endod J 2021; 54: 2044-2073.
※参考書籍
「The JOURNAL of JIADS CLUB Vol.28 No.2 2022.8」