Question
噛む機能を改善するために舌接触補助床(PAP)が有効であると聞きました。詳しく教えてください。
Answer
舌接触補助床(PAP)とは、舌の接触状態等を変化させて咀嚼機能等の改善を図ることを目的とした、口腔内の形態や空隙を考慮して製作された床(義歯)型の口腔内装置のことをいいます。
例1. 上顎義歯の口蓋部を肥厚させたPAP
例2. 口蓋部だけの装置(口蓋床)として製作されたPAP
対象の疾患等
- 脳血管障害
- 口腔腫瘍等による咀嚼機能障害等
- 神経筋疾患
- 加齢にともなう嚥下障害
※神経筋疾患では、嚥下障害を契機に病気が発見される場合もあります。
嚥下障害・構音障害に対するPAP
PAPは嚥下や構音における舌と口蓋との接触状況を改善するための装置ですので、当然舌と口蓋との接触状況を診査する必要があります。
診査内容
- 嚥下後の食物の口腔・咽頭残留
- 咀嚼時の食物の早期流入
- 発音しづらさ
- 舌の可動性
- 舌と口蓋の接触状況(パラトグラム)
- フードテスト
嚥下障害に対するPAP
頭頚部癌による舌切除術後は、舌の欠損や運動障害が生じます。その結果、舌と口蓋の接触が不良となり嚥下に必要な圧力を産出できなくなるため、嚥下障害が生じます。PAPは義歯床口蓋部に豊隆を付与し、舌が届かない空間を埋める可撤性の装置で、これにより舌と口蓋の接触を補助することが可能となり、嚥下機能の改善が見込まれます。
構音障害に対するPAP
頭頚部癌による舌切除術後は、舌の欠損や運動障害が生じます。その結果、舌と口蓋の接触が不良となり構音点を確保できなくなること、適切なせばめが作れないこと、破裂、破擦などの構音様式に必要な巧緻な動きができなくなることなどにより構音障害が生じます。PAPによる構音機能の改善については、主として硬口蓋部で産生される子音の構音点の回復、構音様式の補助がまず直接的効果として期待され、また共鳴腔としての口腔容積の減少により、一部の母音を改善させることも期待できます。
※口腔内で舌によってつくられる子音
舌の欠損や運動障害がある場合、とくに「カ行」「サ行」「タ行」「ラ行」に影響がみられます。
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歯 |
歯肉 |
硬口蓋 |
軟口蓋 |
破裂音 |
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タ テ ト ダ デ ド |
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カ キ ク ケ コ ガ ギ グ ゲ ゴ |
通鼻音 |
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ナ ニ ヌ ネ ノ |
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摩擦音 |
サ ス セ ソ ザ ズ ゼ ゾ |
シ ジ |
ヒ ヤ ユ ヨ |
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破擦音 |
ツ ヅ |
チ ヂ |
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弾 音 |
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ラ リ ル レ ロ |
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■PAPの治療費
原則として摂食機能療法を行っていることが必要となりますが、保険治療です。
■正常な食生活のために心がける事
前号でも触れましたが、正常な食生活は口腔機能の維持および全身の健康にとってとても大切です。次のことに気を付けましょう。
1.精製されたものは食べない。(砂糖・小麦粉など)
2.合成されたもの(着色料・甘味料・保存料など)が入っていない食品を選ぶ
3.悪い植物油は避ける(サラダオイル・マヨネーズ・天ぷら油・ゴマ油・ココナッツオイルなど)
4.添加物は避ける(発色剤・酸化防止剤・調味料・乳化剤・pH調整剤など)
5.人工甘味料は絶対に避ける
6.ファストフード・パン類全般は避ける
※参考書籍
「摂食・嚥下障害、構音障害に対する舌接触補助床(PAP)の診療ガイドライン」
一般社団法人 日本老年歯科医学会
社団法人 日本補綴歯科学会