Question
口腔乾燥症について教えてください。
Answer
口腔乾燥症は「ドライマウス」とも呼ばれています。
■口腔乾燥が進むとこんな症状があらわれます
・味覚異常
味を感じる味蕾(みらい)は、水に溶けるものを味として感じます。このため唾液分泌が低下すると、味覚の低下や味覚異常を引き起こすことがあります。
・食物摂取困難、嚥下困難
乾燥すると舌や頬粘膜を動かしにくくなり、さらに唾液量が低下すると咀嚼した食物の食塊を作ることが困難となり嚥下障害へつながります。
・義歯がガタつく
義歯は、唾液により義歯と粘膜の間の空気をなくすことで吸着しています。口腔が乾燥すると、適合の良い義歯でもガタつくことがあります。その他、舌苔の増加や虫歯、歯周病、口腔粘膜疾患が増えます。
・舌が痛い
唾液には抗菌作用や自浄作用があり、口腔内の細菌のバランスを保つ役割を果たしています。しかし、唾液が不足すると、カンジダ菌をはじめとする細菌類が増殖し、舌にピリピリとした痛みをもたらしたり、口角が切れたりします。
■口腔乾燥の原因は何だろう?
近年の研究では、従来言われていた加齢による唾液分泌低下が主要因ではなく、
・抗うつ剤や降圧剤、抗コリン剤などの薬剤性のもの
・飲水量の低下による脱水
・経管栄養摂取による唾液分泌減少
であることが明らかになってきました。
この他、口呼吸や挿管されている場合、十分な唾液量があっても口腔が乾燥している場合があります。またストレスや糖尿病、唾液性疾患、シェーグレン症候群等の疾患も原因となります。
普段からお茶やコーヒーなどのカフェインが含まれる飲みものを頻繁に飲んでいる場合は、カフェインの利尿作用によって脱水し、唾液分泌が抑制されている可能性があります。近年、若年者に人気があるエナジードリンクは、カフェインの含有量が非常に高いため注意が必要です。その他には、常にマスクをしていたり、鼻炎の影響で口呼吸になっている場合もあります。また、緊張やストレスが続いていたり、更年期障害によるホルモンバランスの乱れからも口の渇きを感じることがあります。
唾液腺の組織障害の原因のひとつに活性酸素がありますが、これに対して抗酸化物質が有効であることがわかっています1)。ビタミンCは身近な抗酸化物質として手軽に摂取できます。他にも、アスタキサンチンやコエンザイムQ10も強い抗酸化作用があり、ドライマウスの改善に効果があったという研究結果が出ています2),3)。さらに近年では、ポリフェノールの一種であるフラボノイド”ケルセチン”が唾液分泌を増やす効果に期待できるという報告もあります4)。
■口腔乾燥症の見分け方はどうするの?
・舌の下に唾液が溜まっていない
・舌の上に唾液が見られず乾いている
・唾液が泡立ったり、ネバネバしたりしている
・口腔粘膜がツルツルしている
・水分摂取量や尿量の低下(脱水が疑われる時)
・義歯が外れやすくなる
などの症状があったら口腔乾燥症の可能性があります。
■栄養面でのアドバイス
・カフェイン(コーヒーや緑茶など)飲料の摂取を控え、水を飲む。
・服用薬を副作用の少ないものに変更できるか、主治医に相談する。
・こまめに水を摂取する(フレーバーのついたミネラルウォーターは糖質が含まれている可能性があるため避ける)
・緊張やストレスを取り除く。難しい場合は、マグネシウムやビタミンB群を摂取する。
マグネシウムの多い食材:あおさ、のり、わかめ、ココア、ナッツなど
ビタミンB群の多い食材:豚肉、鶏肉、カツオ、レバー、ニンニクなど
・唾液腺を活性酵素の攻撃から守るため、ビタミンC、アスタキサンチン、コエンザイムQ10などのサプリメントを活用する。
コエンザイムQ10はワルファリンの作用を弱める可能性があるため、服用している方は別のものを利用しましょう5)。
ビタミンCの多い食材:柑橘類、ブロッコリー、ピーマンなど
アスタキサンチンの多い食材:サケ、いくら、エビなど
コエンザイムQ10の多い食材:牛肉、鶏肉、ニシンなど
・ケルセチンの多い食材を摂取する。(玉ねぎ・とくに外皮、ブロッコリー、サニーレタス、リンゴなど)
■対症療法
口腔の症状やその関連症状を緩和することが対症療法です。口腔乾燥症(ドライマウス)の症状が進むと口臭も強くなる傾向にありますが、唾液の分泌が促進されれば症状が和らぐことが多いため、よく用いられるのが「唾液腺マッサージ」を含むお口のストレッチです。その他、日頃のちょっとした心がけで唾液の分泌が促進され乾燥も緩和します。以下にそれらを対策としてまとめました。これらは、要介護者や寝たきりの方にはなかなか当てはめにくい項目ですが、少しでも実践を心掛けて頂ければ、看護の現場での口腔ケアや非経口摂取の方のドライマウス対策につながります。口腔ケアは難しいことではありません。歯科専門職と上手く連携して習慣化しましょう。
【対策】
1.口腔ケアを(用品を含め)全体的に見直す!
口腔ケアをすると多くの場合唾液分泌が増えます。歯磨剤の泡立ち成分(ラウリル硫酸ナトリウム等)や洗口液に含まれているアルコールは、口腔粘膜を刺激し口腔乾燥を進行させると言われています。従って、これらの成分を含まない製品がおすすめです。また歯ブラシは自分に合ったタイプを選び、歯と歯肉の境目をマッサージするように磨いて唾液分泌を促進しましょう。電動ブラシを使用すると、その振動が刺激となり唾液分泌促進に効果的な場合があります。また、口腔内が汚れやすい胃ろう等の経管栄養摂取者には口腔ケアが特に重要となります。
2.良く噛むこと!
唾液腺を刺激して活性化させるためには、何よりも噛むことが大事です。柔らかいものばかり食べていると唾液がだんだんと出にくい状況になり、顎や口の筋力も低下します。健康な状態の時から、介護が必要になってもできる限りよく噛んで食べる(柔らかいものでもよく噛みましょう)、柔らかめの煮物や味噌汁の具などは小さく切りすぎず少し大きめ(一口大)にする、水分で流し込むような食べ方をしない、歌を歌うなどしてはっきり口を動かす機会を作る、表情豊かに暮らす…、など生活自体を変えていきましょう。食べにくいだろうから細かくしてあげよう、歩けるけれど危ないから車椅子に乗りましょうというような行き過ぎた気配りは、過介護と同じなのです。
ガムの噛める方は、ガムを噛むことによる刺激で唾液分泌を促進することができるのでお奨めです。
3.規則正しい生活を送る!
唾液の分泌は自律神経でコントロールされています。規則正しい生活を送ることは自律神経のバランスを保つためにも大切です。喫煙やアルコール類も控えめに・・・。
4.鼻で呼吸する(口呼吸の回避)!
口を開けている状態が長いほど口は乾燥しやすくなります。鼻が詰まってなくても習慣的に口で呼吸をする方がいらっしゃいますが口を軽く閉じて鼻呼吸の習慣化に努めましょう。
5.定期的に歯科検診を受ける!
唾液は口の中を殺菌消毒する重要な働きがあります。そのため唾液分泌の少ない方は、よく歯を磨いていても虫歯や歯周病になりやすく、歯垢のチェックなど専門的な口腔ケアが欠かせません。口臭対策も兼ね3ヶ月に1回程度は、歯科医院でチェックしてもらいましょう。
6.ストレッチ・体操リハビリ!
唾液腺マッサージや舌のストレッチが効果的です。「舌の突出を繰り返す」「上下左右に動かす」など口腔体操の実施や、会話を増やす、歌う等も有効なストレッチとなります。 特に、舌であめ玉をつくる訓練(舌で頬の内側を押して、頬にあめ玉を含んでいるようにする)が非常に有効です。簡単にできるようになったら、舌で頬にあめ玉をつくりながら舌尖を片側ずつ上下・左右に動かしたりすると、さらに効果があります。その際、唾液が出たらゴックンと嚥下につなげましょう。
また、ただ何となく動かすのではなく、音楽に合わせて動かしてみると効果的。毎回同じ曲に合わせて行うことで、舌の動かしやすさや舌の持久力などの変化を感じることができ、評価につなげることが可能です。
その他、歯磨き時に歯ブラシで舌や頬を動かすように刺激するのも有効です。受動的な訓練しかできない場合には、口腔ケア時に積極的に歯ブラシや指で舌や頬に触れ、刺激していくとよいでしょう。開口したままの状態では口腔内はいっそう乾燥します。また閉口するための口輪筋への刺激もお忘れなく。
訓練のほか、唾液腺マッサージを行う場合は、耳周辺や下顎周辺を軽く圧迫するように触れていきます。方法は皆さん自身が自分の顔に触れてマッサージするときに、気持ちよい力加減や動かし方で行えば大丈夫です。
7.お口の保湿ケア!
水分補給に加え、うがいの回数を増やしたり、スポンジブラシ等で粘膜を湿潤させ、保湿してください。唾液腺マッサージやお口のストレッチ、及び上記の1.と2.を行ってもあまり効果がない場合は、その方のお口の乾燥状態に合った口腔保湿剤(口腔化粧品質)を必要に応じて使用します。ジェルやリキッドを使い分けて保湿し、症状を緩和させます。例えば、「夜、口が渇いて目が覚める」などの症状には、就寝前に保湿リキッドでのうがいを習慣化させることなどが効果的です。
●口腔保湿剤の使い分け
口腔保湿剤には色々なタイプがあり、使い方を誤ると症状が改善しない場合があります。一般的に販売されている口腔保湿剤には、ペースト、ジェル、液状の3タイプがあります。
ペースト
(特徴と使用上の注意)
・定められた適量を調整しやすい。
(適応できる症状や使い方)
・乾燥の状態が強く、帯状の痰の付着が顕著な場合など。
・乾燥部に停滞し易いので、塗布後は暫く放置し、強固に付着した痰を柔らかくして除去する。
ジェル
(特徴と使用上の注意)
・少量でよく拡がる。
・量が多過ぎると咽頭に貯留しやすく誤嚥の危険がある。
(適応できる症状や使い方)
・頬粘膜や舌に乾燥した痰がからみついている場合など。
・スポンジブラシ等になじみやすいので、口腔内全体にまんべんなく塗布しながら、からみついた痰を除去する。
液状
(特徴と使用上の注意)
・ガーゼ等に含ませ清拭する。
・誤嚥の傾向のある方には不向きである。
(適応できる症状や使い方)
・オブラート状の痰の除去など。
・口腔乾燥の度合いによって量を調節しながら使用する。
・強い乾燥状態への使用には適していない。
口腔保湿剤は、口腔乾燥の日々の状態によって、上記のタイプを上手く使い分けると、早く改善する傾向にあります。また、含まれている成分によっても効能が若干異なるので、歯科専門職とうまく連携し、その時々に必要な対応を行いましょう。口腔乾燥は長期に渡っての対応が必要です。口腔ケアのプラニングを確立し改善を図りましょう。
唾液によって口腔内が潤うと、味も感じやすくなり、食事のおいしさが一層増します。
おいしく食べて楽しく語り、表情も豊かな生活はその方のQOLの向上そのものです。
1)Liu X, et al: Mitochondria-targeted antioxidant protects against irradiation-induced salivary gland hypofunction. Scientific reports, 11 (1): 7690, 2021.
2)Koufuchi R, et al: Effects of coenzyme Q10 on salivary secretion. ClinBiochem, 44(8-9): 669-674, 2011.
3)Yamada T, et al: Evaluation of Therapeutic Effects of Astaxanthin on Impairments in Salivary Secretion. Journal of clinical biochemistry and nutrition, 47(2): 130-137, 2010.
4)高橋絢子, 中山亮子, 葉阪彩加, 伊藤由美, 梁 洪淵, 櫻井 孝, 栗原 毅, 井出文雄, 三島健二, 井上裕子, 斎藤一郎:唾液分泌障害に対するケルセチンの効果の検討. 第14回抗加齢医学会総会, 2014.
5)Heck AM, et al: Potential interaction between alternative therapies and Warfarin. Am J Health Syst Pharm, 57(13): 1221-1227, 2000.
※参考
口腔乾燥症 (PDF形式 847KB)
ドライマウス(口腔乾燥症)について – その2 (PDF形式 807KB)
ドライマウス(口腔乾燥症)について – その3 (PDF形式 795KB)
口腔乾燥の改善のためにできること (PDF形式 227KB)
ライオン歯科材株式会社ホームページ
※参考書籍
「歯科でできる実践栄養指導」
監修 山本義徳、著 山本典子 デンタルダイヤモンド社