Question
BP製剤(ビスホスホネート製剤)を飲んでいますが、骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)になりやすいと言われました。どんなことに気をつけたらいいですか?
Answer
骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)は病態的に「骨髄炎型」と「骨壊死型」の2種類に分類できると考えられています。
「骨髄炎型」は無菌性・虚血性の病態で、骨吸収抑制薬単独の副作用です。
一方、「骨髄炎型」は歯性感染症に由来する細菌性骨髄炎が先行し、骨吸収抑制薬が病態を修飾しているリスクが考えられます1)。
ARONJのリスク因子は次のようなものがあります。
1.局所的要因
- 骨への侵襲的歯科処置
- 不適合義歯、過大な咬合力
- 口腔衛生状態の不良、歯周病、歯肉膿瘍、根尖性歯周炎などの炎症性疾患
2.骨吸収抑制薬
投与量および投与期間
3.全身的要因
加齢、がん、糖尿病、関節リウマチ、他
4,遺伝的要因
MMP-2、チトクローム P450-2などのSNP
5.ライフスタイル
喫煙、飲酒、肥満
6.併用薬剤
抗がん剤、副腎皮質ステロイド、他
このように、ARONJは複数のリスク因子が重複して発症します2)。また、加齢もリスク因子の一つと考えられ3),4)、加齢が引き起こす骨の老化には酸化ストレスが関連しています5),6)。
骨吸収抑制薬を高用量で投与する悪性腫瘍の患者さんでARONJ発症率が高いこと、骨粗鬆症に対する低用量でもBP投与が4年を超えると発症率が一気に高まること7)から、現在のところ累積投与量がリスクであると思われます。
理想的な対応としては、骨吸収抑制薬を飲む前に抜歯を含めた歯科治療を行い、感染リスクを減らしておくことです。
すでに骨吸収抑制薬を飲んだ後でも、抜歯以外の一般的な歯科治療は通常通り行うことができます。抜歯などの外科処置が必要な際は、累積投与量が少ないうちに完了させておくことが大切です。BP製剤投与期間4年以上やステロイド併用がある場合はARONJ発症リスクが高くなるので、専門施設で抜歯されるといいです。
1)岸本裕充. MROMJに関する論点とは?. 柴原孝彦, 岸本裕充, 矢郷 香, 他. 薬剤・ビスホスホネート関連顎骨壊死MRONJ・BRONJ, 東京:クインテッセンス出版, 2016.
2) 顎骨壊死検討委員会. 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016.
3)Bamias A, Kastritis E, Bamia C, et al. Osteonecrosis of the jaw in cancer after treatment with bisphosphonates: incidence and risk factors. J Clin Oncol 2005; 23: 8580-8587.
4)Marx RE, Sawatari Y, Fortin M, et al. Bisphosphonate-induced exposed bone (osteonecrosis / osteopetrosis) of the jaws: risk factors, recognition, prevention, and treatment. J Oral Maxillofac Surg 2005; 63: 1567-1575.
5)Almeida M, Han L, Martin-Millan M, et al. Skeletal involution by age-associated oxidative stress and its acceleration by loss of sex steroids. J Biol Chem 2007; 282: 27285-27297.
6)Almeida M, O’Brien CA. Basic biology of skeletal aging: role of stress response pathways. J Gerontol Biol Sci Med Sci 2013; 68: 1197-1208.
7)Ruggiero SL, Dodson TB, Fantasia J, et al. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons positions paper on medication-related osteonecrosis of the jaw 2014 update. J Oral Maxillofac Surg 2014; 72: 1938-1956.
※参考文献
「日本口腔インプラント学会誌 2019 年 32 巻 1 号 p. 20-26」
口腔インプラント医が知っておくべき骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の知識:玉岡 丈二 高岡 一樹 岸本 裕充